農作物被害は158億円 ベテラン狩猟者と初心者の融合で、解決目指す
シカやイノシシなど野生鳥獣による農作物被害は、2019年度に約158億円にものぼった。各地で猟友会が駆除にあたり、一定の効果も見られるが、メンバーの減少や高齢化が深刻になっている。そうした中、狩猟免許を持ちながら経験の浅い若手と猟友会を結びつけ、鳥獣被害の問題を解決させる動きが起きている。どのような仕組みなのか、効果は出ているのか。埼玉県秩父の狩猟現場を取材した。(取材、撮影:科学ライター・荒舩良孝/Yahoo!ニュース 特集編集部)
大型動物を捕獲する猟師たち
周囲の山々に目を向けると、ほとんどの木が葉を落として肌寒い様子を見せている。人口8000人ほどの埼玉県横瀬町。昨年12月上旬の土曜日の朝、駐車場にオレンジ色や黄色のベストを着た10人の男性が集まっていた。その多くが町を拠点とする「武甲猟友会」のメンバーだ。 メンバーはシカなどの大型動物を捕獲する「巻き狩り」に向かう。巻き狩りとは、獲物を撃つ「タツ」(射手)と呼ばれる猟師を山の中に配置し、狩猟犬を連れた「勢子(せこ)」と呼ばれる猟師たちが獲物をタツのいる場所まで追い込んで仕留める猟だ。打ち合わせをした後、タツは4人と2人の二手に分かれ、また、勢子の4人もそれぞれの持ち場へと向かった。
4人組のタツの一人は83歳のベテラン猟師だ。山の登り口で経験の浅い3人に声をかけた。 「歩いて暑くなるから、なるべく薄着になって登ったほうがいい」 その後、ベテラン猟師は足跡などから、シカがよく通りそうな場所を見つけて3人の猟師をそれぞれ配置。獲物が来たときの撃ち方などもアドバイスした。ただ、そのうちの一人、吉田隼介さん(42)には道すがらこう声をかけた。 「俺はいつまで来られるかわからないから、今度は吉田くんが狩りをいろいろ教えてやってな」 吉田さんは「はい」と短く応じた。吉田さんは猟友会に所属する一方、狩猟後継者の確保・育成をおこなうスタートアップ企業「カリラボ」の代表でもある。 「狩猟免許は簡単に取得できますが、実際に猟をするにはものすごく高いハードルがあります。僕はもともと、2016年に免許を取得し、東京の猟友会に入っていたのですが、会での狩猟機会はありませんでした。狩猟ができずにペーパー猟師の人は、僕の周りには結構います。でも、横瀬町に来たら猟師不足で困っていた。猟師不足の地域と若手の狩猟者を結びつける仕組みができれば、みんながハッピーになるのではないかと考えたのです」 吉田さんは起業のきっかけをそう語る。