市民権を得たプライドパレード、30年前日本で始めた92歳の男性が心配すること LGBT理解増進法に潜む差別、「大事なのは個々の幸せ」
「中央公園をスタートした時は、悪いことをしているような気がして、何となく下を向いていました。それが新宿駅の南口の当たりから、歩道から手を振ってくれる人が増えて、堂々と歩けるようになりました」 パレードに飛び入り参加する人も現れ、ゴールの渋谷区の「宮下公園」に到着する頃には千人を超える規模にまで膨らんだ。 共同通信が保存していた当時の写真を見ると、「私たちは誇りをもって同性愛者として生きる」「わたしはバイセクシュアル」といったプラカードを持つ人々の顔からは笑みがこぼれ、歴史的な一歩を踏み出した熱気が伝わってくる。 歩き終えた南さんは公園の草むらに寝転がり、後から続いてきた人たちの足元を、安堵と充足した気持ちで眺めたという。 ▽協賛企業や団体は300超、「性的少数者が無視できない存在に」 成功に終わった1994年に始まったパレードは、3回目に運営方針などを巡って紛糾し、1997年の4回目には大幅に縮小した。南さんは第一線を退き、以降は実行委員長を変えながら断続的に行われたという。2011年には「東京レインボープライド」が設立された。翌年から毎年開かれるようになり、南さんも数年前から再び参加するようになった。
1994年のパレードから30年がたった今年は、当事者やサポーター約1万5千人(主催者発表)が行進し、過去最大の規模を達成した。30年前はスポンサーを頼もうとしても、「応援はするけど名前は出さないで。裏側から応援しています」と言ってもらうのが精いっぱいだった。だが今年協賛した企業や団体は300を超えた。南さんは「経済的にも性的少数者が無視できない存在になったということ。大きな意味があると思う」と話す。 ▽「おのおのが求める幸せの形を追求していくことが大事」 こうした状況を見れば、社会の性的少数者への理解が高まっているように見えるが、楽観視はできないという。 「差別が地下深くに潜っているように思う。そのうち地震みたいに震動するということが起きるんじゃないかと思うんです」 その心配の種は昨年6月に成立し、施行された「LGBT理解増進法」だ。性的指向にかかわらず人権を尊重する理念を定められたが、「全ての国民が安心して生活することができるように留意する」という内容が盛り込まれた。