タデイ・ポガチャルがラスト100kmでプロトンから飛び出しトリプルクラウン達成【Cycle*2024 UCI世界選手権大会 男子エリートロードレース:レビュー】
大多数はピクリとも動かなかった。クイン・シモンズ(アメリカ)とアンドレア・バジオーリ(イタリア)だけが反応するも、両者ともすぐに千切れた。ベン・ヒーリー(アイルランド)も慌てて追いかけたが、無駄だった。それまでポガチャルの後輪につけていたマルク・ヒルシ(スイス)は「単なるテストに違いない」と判断し、エヴェネプールは「自殺行為だ」と考えた。ファンデルプールは「世界タイトルを獲るチャンスをドブに捨てる行為」とみなし、「ポーカーゲームに引っかかった」とほくそ笑んだという。 「飛び出した後、まるで自分で自分の片膝に弾丸を打ち込んでいるようなものだと考えた。そのまま走り続けたことで、もう片膝にももう一発」(ポガチャル)
ポガチャル本人さえ、自らを愚か者だと感じていた。ただインレースモトのタイム差を知らせるホワイトボードで状況を把握したトラトニクが──世界選手権ロードレースでは無線使用は禁じられている──、先頭集団からあえて後退し、自分を待っている姿を目にした瞬間、後悔はきれいさっぱり消え去った。
「ヤンはマシンそのものだった!彼がとてつもなく力強く引っ張ってくれたおかげで、大いなる希望とやる気がわいてきた」(ポガチャル)
91km地点で先頭集団にジョインしたが、ポガチャルはおとなしくその場に留まっているわけにはいかなかった。後方ではベルギーが追走を始めていた。オランダもいよいよ隊列を組み上げた。先頭合流時には1分あったリードは、あっという間に30秒程度にまで詰められた。だからこそトラトニクの最後の牽引を利用して、5回目のベルフシュトラーセ登坂で加速すると、さらに先を急いだ。この夏のツールでポガチャルのマイヨ・ジョーヌ獲りに貢献したシヴァコフだけが、今回はライバルとして、世界チャンピオンへの栄光の旅にしがみついてきた。再びタイム差を50秒にまでこじ開けた。
「タイム差を50秒から1分程度にキープできれば上々だ」と、エヴェネプールはベルギー代表の仲間に伝えていたという。ただ肝心のチームメイトたちは、厳しいコースと速いペースに疲弊し、次々と脱落して行く。ならば残る2人に牽引続行を託す代わりに、自らで動こう。エヴェネプールはこう腹をくくると、残り72km、加速に転じた。そして、これを合図に、ポガチャルに置き去りにされた強豪たちによる熾烈な駆け引き合戦が幕を開けた。ヒーリーとトムス・スクインシュ(ラトビア)、オスカー・オンリー(イギリス)が、一時は先行したこともあった。ただファンデルプールとエヴェネプールを中心に、うんざりするほど攻撃と牽制とが繰り返され、誰一人として決定機を打てなかった。
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