「カタール断交」長期化も 中東で新たな戦火が広がる?
カタールをめぐる中東湾岸諸国の対立が長期化の様相を呈してきました。20日にはカタールが、断交の発端となった自国の国営通信へのサイバー攻撃について、名指しこそ避けつつ「近隣国」が関与したと非難しました。サウジアラビアでも21日、サルマン国王の実子で国防相のムハンマド・ビン・サルマン副皇太子を皇太子に昇格しました。ムハンマド氏はイランへの強硬姿勢を打ち出している人物です。今後の展望について、国際政治学者の六辻彰二氏に寄稿してもらいました。 【地図】サウジがカタールと断交、スンニ派同士でなぜ“兄弟げんか”
カタールは簡単には折れない?
6月5日にサウジアラビアなどがカタールと断交して始まった「カタール危機」。関係国からは仲裁を名乗り出る国も現れていますが、その先行きは不透明です。 政情が不安定な中東では、これまで四度にわたる中東戦争や湾岸戦争など大きな戦争が発生してきました。現在でもパレスチナ問題をはじめ、シリア内戦やイエメン内戦など、戦火が止むことはありません。カタール危機は中東情勢に火をつけることになるのでしょうか。カタール危機から中東情勢を考えます。 まず、それぞれの当事国にとって、この危機をどのように乗り換えるのが最善かを考えます。 今回サウジアラビアは、カタールが「サウジなどが『過激派』と呼ぶムスリム同胞団やハマスなどを支援していること」、そして「サウジが敵視するイランと経済関係を持ち続けていること」を断交の理由に挙げています。スンニ派のリーダーを自認するサウジにとって、自らの方針に反するカタールとの「断交」は、いわば「制裁」なのです。 しかし、サウジアラビアにとって、湾岸諸国、特にカタール、アラブ首長国連邦(UAE)、オマーン、バーレーンと自らの6か国から成る「湾岸協力理事会」(GCC)メンバーは、国際的な発言力を維持するための「足場」であるがゆえに、その中での対立はできれば早期に収めたいところ。そのため、カタールが「膝を屈して」くるなら、サウジにとってこれ以上よい結果はありません。 これに対して、カタールは湾岸諸国に対抗措置を一切取っていませんが、サウジなどが非難するこの二点は、そう簡単に改めることもできません。ムスリム同胞団の支援やイランとの関係は、サウジの大きすぎる影響から逃れようとする中で生まれた方針だからです。 サウジアラビアはスンニ派の大国としてGCCメンバーを取りまとめてきましたが、それはメンバー国にとって、自分の外交方針までサウジに左右されることを意味します。GCCメンバーの中でも、カタールは世界有数の天然ガス輸出国で、湾岸諸国でも屈指の高所得国。その経済力を背景に、サウジの求心力から逃れようとしてきたカタールが、サウジが期待するほど簡単に折れるかは疑問です。