「ネット選挙」に夢はない? 投票環境をどう改善するべきか
離島や在外邦人の投票
私たちは、より良い選挙制度を考えるための材料が決定的に不足していることを認識しなければなりません。無効票のうちの疑問票がどのくらい占めるのかのデータも公表されていないのです。そんな状態で投票環境の向上を検討しても感覚的な対処に留まり、成果も検証できない状況となってしまうのではないでしょうか。 選挙の仕組みを検討するときによく問題として挙げられるのは、離島や海外に居住する在外邦人です。離島には約38.7万人(2010年時点)が居住しており、在外邦人は133.8万人(2016年時点)です。離島での選挙は、天候などの影響で投票時間が繰り上げられたり、開票が遅れたりする問題があります。在外邦人の選挙は、投票用紙の請求など投票の一連手続きを全て国際郵便で行うため、投票期間が極めて短くなったり、投票しても用紙が届かず無効票となったりするケースがあります。 併せて、在外邦人には最高裁裁判官の国民審査に参加できないことも問題です。これも投票用紙に裁判官の名前を印刷するのに時間がかかり、各国の大使館、領事館に期間内に確実に届けるが難しいというのが総務省による説明です。 在外邦人が国民審査の投票権確認を求めた2011年4月の最高裁判決では、投票ができないことを違憲とは認めなかったものの、判決文では「通信手段が地球規模でめざましい発達を遂げており、一般論として、在外国民に国民審査の対象である個々の最高裁判所の裁判官に関する情報を適正に伝達することが著しく困難であるとまではいえなくなったもの考えられる」としており、疑問を呈する形になっています よく見ると、離島や在外邦人の投票に関わる問題は、投票用紙をネットで送信して現地で印刷できれば問題の殆どを解消できるのではないでしょうか。投票用紙をネットで送信して印刷すれば、原票があるので万が一の事態でも再検証を行うことができます。 私たちはネット投票というと、《ネット投票用の機械で電子データを送信、開票までを電子化すること》とイメージしがちですが、このやり方には機械の操作や送信データの改ざん、もちろん人為的なミスも含め、さまざまなリスクが生じます。現状の制度やシステムを改善していくためには、問題を捉える“解像度”を上げなければなりません。