新たに前進する日本に期待:マティアス・コーマンOECD事務総長に聞く
1月に来日した経済協力開発機構(OECD)のマティアス・コーマン事務総長に、最新の日本経済の現状を分析、提言する「対日経済審査報告書」の内容などについて聞いた。(聞き手はニッポンドットコム理事長の赤阪清隆)
4つの提言
赤阪清隆 ようこそ日本へいらっしゃいました。はじめに、OECDが発表した「対日経済審査報告書2024」の主な調査結果や提言についてお聞きしたい。 マティアス・コーマン 報告書の内容は、日本の方々にとって驚くようなことではない。むしろ、OECDは常に、それぞれの国が長期的な課題に取り組むうえで必要な議論や政策対応を促進させるため、いわば独立した「鏡」として役立つ存在であろうとしている。 提言の柱は4つある。まず何よりも、日本は公的債務残高を減らすべきだ。コロナ禍前も国際基準よりかなり高かったが、その後は国内総生産(GDP)に対する公的債務残高の比率が245%に達している。そのため、報告書では持続可能で、かつ継続的に公的債務残高を確実に減らすことの必要性を強調した。日本国内の歳出圧力に対応する余地を作るとともに、将来の経済ショックにも対応できる強靭(きょうじん)性を再構築することが必要だからだ。 支出と歳入の両面に取り組みのチャンスがある。一つの大きな歳出効率化の手立ては、医療費改革だ。OECDの平均と比較して、日本は入院期間がけた外れに長い。良質で低コストな医療体制へ改善していくことは可能だ。歳入面では、成長の強化を背景に歳入を増やす余力はある。そのためにも生産性の向上が必要と言っているが、それに加えてほかの歳入強化策、特に付加価値税(消費税)を段階的に引き上げていく道がある。日本の税率10%は、OECD平均よりかなり低い。 2点目は、生産性向上にあたり日本が取り組むべき分野を指摘した。大企業が研究開発に多額を投資している一方、中小企業では十分な取り組みが見られない。業績不振の企業が倒産から手厚く守られているという意味で、ビジネスの新陳代謝が欠如している。生産性の低い企業からよりイノベーティブな企業に向けて、資本を効率的に配分していくことが、生産性の向上に極めて重要となる。 3点目は、高齢化や少子化といった人口動態の逆風と経済成長の関連についても指摘した。労働力人口に占める65歳以上の高齢者の割合は、何十年もの間、増え続けるので、女性と高齢者のさらなる労働市場への参入を促す必要があることを強調したい。 日本人の健康寿命が延びている状況に対応し、高齢者もより長く働くことができるような環境整備が必要だ。日本では、企業に勤める人の70%が60歳で定年を迎えるという。これは早すぎる。また、65歳の年金支給年齢は引き上げた方がよく、少なくとも社会に貢献し続けられるようにすべきだ。 このほか、出生率の向上、女性や高齢者の労働市場への参加促進、外国人労働者の受け入れなど、日本が取り組む課題は多い。 最後の4点目となる提言は、気候変動対策についてだ。日本は、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする野心的な目標(カーボンニュートラル)を掲げている。しかし、現在の政策枠組みでは達成は難しい。この2050年目標を達成するには、一部のモメンタムを加速化し、また一部の措置を強化する必要がある。