新たに前進する日本に期待:マティアス・コーマンOECD事務総長に聞く
柔軟なエネルギー政策立案を
赤阪 気候変動と関連して、エネルギーに関する記述は報告書にあるか? コーマン 日本のグリーン成長戦略では水素と燃料アンモニアに着目しているが、まだ費用効率は良くない。原子力発電が社会的な受容の問題に直面しているのは明確だ。2030年までにエネルギーミックスにおける原子力発電が占める割合を2倍にすることは難しいかもしれない。こうした事態に日本は柔軟に対応するため、必要に応じて、複数の削減シナリオと対策の予備案を準備しておく必要がある。 これまでの対日経済審査報告書でOECDは、発電における再生可能エネルギーのシェアを増やせるように送電網を改善すべきと提言してきた。カーボン・プライシングを強化する重要な取り組みについては評価しており、これにより、日本がカーボンニュートラルを達成することを期待している。 赤阪 約60年前、OECDに加盟する準備を進めていたころの日本は「優等生」だった。今回、日本がOECDの提言を受け入れると確信しているか? コーマン そう確信している。ただ、選挙で民主的に選ばれた政府は、改革のスピードや程度について政治的に調整する必要があることも理解している。政策実行に直接責任を持たないOECDにとってなすべき政策を説明するのは比較的容易だが、国民に説明責任を持つ政府は、国民の支持を得なければならない。 OECDとしては、提言を定期的に再検討し、再提案していくことが重要だと考える。公共の議論に寄与することで、政府が、日本に必要な改革について国民の支持が得られることを望んでいる。重要な改革を成功させるためには国民からの支持が必要だ。なぜその改革が必要なのか、それに関するエビデンス、データおよび合理的な論証に基づいた適切な対話が、国民の支持につながっていく。OECDが貢献しようとしているのは、まさにこの部分だ。 赤阪 もちろん、日本では増税することは嫌がられる。消費税10%はかなり低い税率だと分かっているが、増税することは難しいだろう。 コーマン 簡単な選択はない。公的債務残高はGDPの245%に達している。今後の金利はおそらく上昇に向かう。国債の利子の支払いは増える。長期的な債務縮減にコミットしない限り、将来、利払い費で予算の大部分が占められ、医療や教育、交通、防衛などに使える予算は少なくなる。魔法のような解決策などない。 財政状況を改善するには3つの方法しかない。成長力の強化で歳入を増やす。増税で歳入を増やす。そして支出を減らす。この3つだ。そして支出を減らすことも政治的に容易ではない。 日本の財政では、歳出の効率化、資本の有効活用、政策目的の達成の低コスト化が視野に入っていると思っている。しかし、最終的に均衡した予算に戻すためには、財政黒字で債務負担を減らすとまではいかなくとも、いくらか歳入を増やさなければいけない。消費税による歳入増は効率的で市場を歪めない上に、小刻みに引き上げていくことができる。だが、真剣に取り組むまでの時間が長ければ長いほど、問題解決はますます困難になるだろう。 赤阪 金融政策について、性急な金融引き締めは勧めないということか。 コーマン 拙速な政策は決して勧めない。しかし、インフレ見通しに関しては、数十年におよぶ低インフレやデフレを経て、日本が転換点を迎えていると考えている。インフレは2%程度で落ち着くと予測しており、それにより緩やかで着実な金融引き締めへの見通しが開かれている。