今日スノーボードHPに登場!平野歩夢は“最強兵器”「トリプルコーク1440」で金メダルを獲得することができるのか
トリプルコーク1440を飛ぶかどうかは、当日の天候、ライバルの動向、なによりパイプの状態によるのかもしれないが、彼らがスノーボーダーであるなら、その性には逆らえないのではないか。 2014年のソチオリンピック。ハーフパイプでは、スイスのユーリ・ポドラドチコフが、今回のトリプルコーク1440と同じように決まれば高得点が期待できるが、失敗のリスクも高いヨーロ・フリップという大技(キャブ・ダブルコーク1440)を見事に決めた。結果として金メダルも手にしたが、メダル以上に、仲間からのリスペクトも勝ち取った。誰もロブ・キングウェルにはなりたくないのである。キングウェルは1998年の全米オープンハーフパイプでテリエ・ハーコンセン、マイケル・マイケルチャックらを抑えて優勝したが、テリエやマイケルチャックが、果敢に3D系のトリックにトライしたのに対し、無難なトリックに終始。しかも、スタイリッシュではないとして、他のプロからは全く評価されなかった。 一方、テリエは当時、すでにスノーボード界のカリスマだったが、元体操選手だったマイケルチャックは、未完成ではあったもののダブルバックフリップにトライしてファンを沸かせ、その後、多くのビデオ監督から出演オファーが届いた。不運にも彼はその後、アキレス腱断裂など、多くのケガに見舞われたが、彼が初めてハーフパイプで決めたバックサイドロデオにアレンジを加えた技はチャックフリップという名前がついた。 ところで今、なぜここまでハーフパイプでは日本勢が他を圧倒しているのか。前出のコッツェンバーグがこんな話をしていた。 「アユムのトリプルコーク1440を見たら、また、ハーフパイプをやりたいっていうライダーが増えるかも」 コッツェンバーグは今、「現在のコンテストシーンは、自分のやりたいことではない」と、オリンピックと距離を置き、バックカントリーを滑る「ナチュラル・セレクション・ツアー」という、スノーボーダーの、スノーボーダーによる大会に軸足を移している。オリンピックを中心とした大会には様々な制限があり、スノーボード本来の精神とは相容れない。かといって、出場しなければスポンサーを失う可能性もあるだけに、選手らはジレンマに陥っているのだが、コッツェンバーグのような決断を下す選手は少なくない。アメリカで今、若い世代の台頭が止まっているのは、そんな流れを象徴する。 今回のハーフパイプ米国代表はホワイトが35歳、ゴールドが28歳、チェイス・ジョージーが26歳と、3人が25歳以上。一番若いルーカス・フォスターが22歳で、対照的に日本代表は23歳の平野歩が最年長だ。本来であれば、21歳のトビー・ミラーあたりが入ってくるかと思ったが、代表から漏れた。彼の場合、昨年1月に大ケガ。昨年12月に競技復帰したが、割って入ることは出来なかった。 また、アメリカで世代交代が進まないのは、ハーフパイプでは技が出尽くしたという感があり、トップになればなるほど技は同じ。オリジナリティを追求したいライダーを遠ざけた可能性も否定できない。 競技は異なるが、かつては人気コンテストだったNBAのスラムダンクコンテストも、同じ状況に陥って人気が低下。1998年には姿を消している。しかし、ビンス・カーターという超人的な身体能力を持った選手がデビューし、次々と規格外のダンクを決めると2000年にコンテストが復活し、次世代のファンを魅了した。 ハーフパイプも同様で、平野歩が“先”を示したことで、また若い世代が、ハーフパイプに戻ってくる可能性があるのでは、とコッツェンバーグは指摘。その視点は興味深い。いずれにしても平野歩ら日本人選手が、スノーボードに新たなイノベーションを起こすことが出来るのか。北京五輪には、そんな要素もまた含まれているといえそうだ。男子ハープパイプの予選は今日9日、メダリストが決まる決勝は11日に行われる。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)