遠藤周作『沈黙』の舞台、そして潜伏キリシタンの足跡を訪ねて 『イエスの生涯』映画化に挑む巨匠―スコセッシ監督は「無力なイエス」の姿をどう描くか
「不寛容さ」増す現代社会へのメッセージ
友達とバカ話に興じていたと思うと、書斎で原稿を書いている。真面目な話の最中で、突然、いたずらを考えつく。小説のジャンルも、『沈黙』のような純文学と、狐狸庵(こりあん)もののようなユーモア小説、全く違うタイプのものを書き分ける。 龍之介さんによると、人間「遠藤周作」の中心にあるのは、「人間は多面的な存在である」という考え方。世の中は善と悪というような二分法では判断できない。善だけの人間、悪だけの人間はいない、ということだ。 「では、自分のダメな部分、弱い部分にどうやって折り合いをつけていくか、また、プラスに転じていくか。それには、自分を客観的に見つめる、もう一人の自分が必要。そのようなことを父から教わった気がする」 ところが、世の中は逆の方向に動いているようだ。「不寛容さ」がこの数年、エスカレートしている。 「マスコミ界の人間の私が言うのもおかしいが」と前置きして、龍之介さんは続けた。 「最近のメディアは、少しでも弱みを見せた人間を徹底的にたたく。その人の社会的生命がなくなろうとも気にせずに。コメンテーターみたいな人がもっともらしいことを言うと、あなたは神なのか、絶対者なのか、と言いたくなる。自分のテレビ局も含めて、マスコミ全体が考え直す時期に来ているのではないか」 「もし父が生きていたら、こうした風潮に対してどんなメッセージを発するのかな、と思うことがある。スコセッシ監督の映画化で、『イエスの生涯』が世界の多くの若者の目にとまり、人を愚直に愛したり、細かな心情に思いをはせたりすることの尊さを感じてもらえたら、うれしいですね」
【参考文献】
・『イエスの生涯』(遠藤周作・著、新潮文庫) ・『人生の踏絵』(遠藤周作・著、新潮文庫) ・『沈黙』刊行50年記念国際シンポジウム全記録 遠藤周作と『沈黙』を語る(企画:遠藤周作文学館、長崎文献社)
【Profile】
天野 久樹(ニッポンドットコム) ライター(ルポルタージュ、スポーツ、紀行など)、翻訳家。元ニッポンドットコム編集部エディター。1961年秋田市生まれ。早稲田大学政治経済学部、イタリア国立ペルージャ外国人大学イタリア語・イタリア文化プロモーション学科卒業。毎日新聞で約20年間、スポーツ記者(大相撲・アマ野球・モータースポーツ担当)などを務める。著書に『浜松オートバイ物語』(郷土出版社/1993年)、訳書に『アイルトン・セナ 確信犯』(三栄書房/2015年)。