クリストファー・アレグザンダーの名言「何かを造ろうとすれば、それだけを単独に扱わずに、…」【本と名言365】
これまでになかった手法で、新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。都市計画における名著『パタン・ランゲージ』は、専門家以上に一般の人々にこそ学びの多い一冊です。253のパターンから導かれる心地よい空間作りは、さまざまな考えを統合してこそ生まれるものでした。 【フォトギャラリーを見る】 何かを造ろうとすれば、それだけを単独に扱わずに、その内外の世界も同時に修復せねばならぬということである。 都市に身を置いて心地よいと感じるのはどんな時だろう。その言語化はプロでも難しく、そしてその実現こそ難しい。そこに大きな可能性を与えた都市計画家、建築家がクリストファー・アレグザンダーだ。アレグザンダーは誰もがデザインのプロセスに参加できる方法を目指し、〈パタン(パターン)・ランゲージ〉と呼ばれる言語とそれを用いるための理論を展開した。 町や建物に繰り返し現れる関係性を「パターン」と呼び、それを「ランゲージ」として記述、共有したアレグザンダー。それをまとめた大著『パタン・ランゲージ―環境設計の手引』で、彼は人々が心地よいと感じる環境を分析しながら253のパターンを定義する。「泳げる水」「小さな人だまり」「座れる階段」「街路を見下ろすバルコニー」などといったパターンを挙げ、これらの組み合わせで心地よい建築や都市が生み出せるという仕組みだ。 たとえば「111 見えがくれの庭」は住空間にこそ応用できる。街路に近すぎる庭はプライバシーが不十分で誰も使わないが、街路からあまりに隔たれた庭も孤立して使われなくなるとある。どうしたら心地いい庭ができるかを説明しながら、文末ではその可能性として「140 街路を見おろすテラス」などいくつかのパターンを示す。この項に飛ぶと今度はフランク・ロイド・ライトの実例を挙げながら、その建築哲学、テラスと街路の魅力的な関係を解き明かす。さらにアレグザンダーはまた次なる項へと読者を誘う。 このようにアレグザンダーは「何かを造ろうとすれば、それだけを単独に扱わずに、その内外の世界も同時に修復せねばならぬということである。」と書いた。もちろん人によって心地よさは違い、パターンの種類や組み合わせは人や場所によって変わる。アレグザンダーは提示した253のパターンもあくまで仮であるとした。都市、住宅、部屋、庭、窓辺、棚……空間を構成する無数の要素を、相互に作用しあうネットワークとして構築したことこそがアレグザンダーの発明であった。 その大きな目的は経済性の高い効率的な近代都市が発展するなか、人間や自然に対する思いやりが欠如した状況を健全化することにあった。面白いことに〈パタン・ランゲージ〉は、1990年代にソフトウェア分野、2000年代に人間の行為に適用する動きがでてきた。次々と関連する項へと結ぶスタイルはインターネット的な情報構築を先んじるもので、ウィキペディアもアレグザンダーの仕事に示唆を得たものだと開発者のウォード・カニンガムも語っている。建築や都市を志さずとも、ぜひ一読を勧めたい名著だ。
クリストファー・アレグザンダー
1936年オーストリア・ウィーン生まれ。1956年ケンブリッジ大学MA(数学)、1958年同大学BA(建築)、1963年ハーバード大学PhD(建築)修了。以降はカリフォルニア大学バークレー校で教職に就きながら、建築理論家として『都市はツリーではない』『形の合成に関するノート』(ともに鹿島出版会)などの著作を発表。1967年環境構造センターを設立し、数々の建築プロジェクトを発表する。1977年に発表した『パタン・ランゲージ―環境設計の手引』は大きな話題となり、現在まで影響は大きい。日本でも〈パタン・ランゲージ〉の実践例として埼玉県入間市の《盈進学園東野高校》を設計した。2022年没。
photo_Yuki Sonoyama text_Yoshinao Yamada illustration_Yoshifu...