AIで生産的なコミュニケーションを提供する--パートナー戦略強化のZoom
米Zoom Video Communicationsは11月25日、社名を「Zoom Communications」に変更することを発表した。これは、ビデオ会議サービスのベンダーから、AIを活用してより広範なコミュニケーションのソリューションを提供する企業への変革になるとし、これに伴いパートナービジネス戦略も新たにするという。グローバルチャネルGo To Market部門責任者のNick Tidd氏と、日本法人ZVC JAPAN 執行役員 パートナービジネス本部長の北原祐司氏に方向性を聞いた。 同社のビデオ会議サービス「Zoom」は、コロナ禍のオンライン化、リモート化の需要の高まりを背景に多数のユーザーを獲得して、ビデオ会議の代名詞にもなった。コロナ禍が本格的に開けた2023年には、より広範なコミュニケーションのソリューションを提供するベンダーに変革すべく、生成AIツールの「AI Companion」を発表。2024年10月に開催した年次のグローバルイベント「Zoomtopia 2024」では、進化版となる「AI Companion 2.0」やAI Companionをカスタマイズ/パーソナライズできるアドオンなども発表している(関連記事)。 Tidd氏は、2024年8月に同社に参加。ビデオ会議分野では、PolyやPolyを買収したHPでビジネスを担当し、パートナービジネスでは30年ほどの経験を持つという。北原氏は2024年4月に参加し、Tidd氏と同じくパートナービジネスの経験が豊富で、近年はSaaS大手各社で要職を歴任。両氏の参加は、同社が大きく変革する上でパートナーチャネルのビジネスがいかに重要であるかを示すものだという。 北原氏は、変革によって同社が獲得可能なコミュニケーション市場の規模が、2023年の1070億ドルから2028年には2350億ドルと2倍以上に拡大するとし、日本に限定しても市場の割合を10%と仮定した場合で2028年に約3兆6000億円規模が見込まれると指摘する。「われわれのビジネス規模は大手SaaS各社と肩を並べる規模にあり、さらなる変革期を迎えている」(北原氏) 成長の柱と位置付けるのは、ビデオ会議から発展したコミュニケーション基盤の「Zoom Workplace」と、コンタクトセンター向けの「Zoom Contact Center」など顧客とのコミュニケーションビジネスを支える「ビジネスサービス」になり、「AI Companion」がこれらのプラットフォームになる。既に前者では、例えば、AI Companionがビデオ会議参加者の会話を文字に起したり、内容を自動的に要約したりする。後者でもオペレーターと顧客のやりとりをAIで要約したりレポートにまとめたりできる。 Tidd氏は、同社が変革で目指しているのは、AIの活用を通じた業務の生産性向上だと強調する。AIを用いた業務効率化や生産性向上は、同社に限らず多くのソフトウェアベンダーも訴求しているが、同氏は、伝統的にサイロで利用されてきたビジネスアプリケーションがAIを通じて“コラボレーション”できるようになると説く。例えば、営業商談にまつわるミーティングであれば、「Salesforce」とZoomが連携して、ミーティングの内容をZoom側のAIが要約したりポイントを抽出したりでき、そうした情報をSalesforce側に反映できるといったことになる。 「このような形で、われわれはコミュニケーションを軸に、AI Companionやエコシステムを通じてユーザーの生産性向上につながるトータルソリューションとして形作ることができる。パートナーの観点では、さまざまなノウハウや実績を生かし、プロフェッショナルサービスや製品などを組み合わせながら、彼らの顧客に資する新たな業務の仕組みやワークフローなどによる価値を提供することができるようになる」(Tidd氏) AI Companionは、同社の有償ユーザーであれば追加費用なしで利用でき、AI Companionが企業と顧客のつなぐ役割を担い、人材の育成やリスキリングの促進も担うとする。同社のAI戦略では、(1)同社独自や異なる複数の言語モデルを連携・活用することによる高度な体験、(2)通話や会議、チャットといったさまざまなコミュニケーション手段あるいはドキュメントからのコンテキストの理解――により、さまざまな業務における作業の検出、追跡、実行、完了までを支援できるようにするという。 Tidd氏によれば、直近1年での機能の追加や強化は約3000といい、AI Companionの月間アクティブユーザー数は前四半期比59%増だという。Zoom Contact Centerの導入もグローバルで約1250社、成長率も前年比82%以上としている。コンタクトセンター向けAIでは、例えば、顧客とのやりとりの内容からAIが感情分析を実行して、その時々のコミュニケーションに適した会話の内容をオペレーターに提案したり生成したりできるようになる。北原氏は、同社AIの日本語への対応精度も日常業務に何ら支障がないほどに高まっているとも説明する。 経費の申請・処理といった定型的な業務におけるAI適用のユースケースも広がる中で、同社が掲げるビジネスコミュニケーション中心のAIのユースケースにはさまざまな可能性が期待される。Tidd氏と北原氏は、同社の新たな方向性を具現化していくためにパートナーとの協業がさらに重要さを増すとして、AI活用を促進していくためのユースケースやトレーニング、ロードマップ情報の提供といったパートナープログラムの内容もさらに充実させていく。 Tidd氏は、「パートナーファーストのアプローチにより、2025年に向けてパートナーのビジネス機会の拡大と成果に貢献したい」と述べる。北原氏も、既存および新規のパートナーと、日本市場での同社の新たな方向性を示していきたいと話している。