侮れない指標「工作機械受注」が示す景況感改善の予感
「前年比」でみると下げ止まり感
次に、工作機械受注の前年比グラフを作成すると、少し違った姿が浮かんできます。目下の前年比伸び率は40%近いマイナスを記録していますが、一方で前年比減少率のカーブは直近ではフラット化しつつあります。基調が反転した2018年前半頃は垂直的な落ち込みを示していましたが、19年入り後は減少ペースが徐々に緩やかになっています。 細かい数値を見ると、前年比減少率は19年6月に▲37.9%を付けた後、7月は▲33.0%、8月は▲37.0%、9月は▲35.5%、10月は▲37.4%と良くも悪くも横ばいにとどまっています。前年比で評価した場合、目下の基調判断は「下げ止まり」、「下げ止まりの兆し」といった表現がなじみます。
「前年の裏」横ばいでも伸び率改善
さて、ここからが本題ともいえるのですが、このような大幅な落ち込みを記録した後にしばしばみられるのは「前年の裏」という現象です(ベースエフェクトともいいます)。一般論として、市場関係者は企業収益やマクロ環境を分析する際、前の年との比較でその伸び率をみますが、比較対象となる前年実績が極端に強かったり弱かったりすると、足もとの前年比伸び率が過大・過小評価され、景況感の形成に歪みが生じます。もちろん、そうした「前年の裏」要因は本来、除去して分析するべきですが、現実の世界では人々の景況感が改善することはよくありますし、またそうした状況で受注額が上向けば前年比の数値は非常に強くなります。
そこで工作機械受注額が(直近の実績値である)1000億円弱で不変と仮定してグラフを延伸すると、前年比減少率は急激に縮小し、半年後には1桁に落ち着きます。これは現在の比較対象が1500億円超のペースだった18年秋頃であるのに対して、先行きは比較対象となる前年実績が18年10~12月期の1350億円強、19年1~3月期の1200億円強と急激に低下していくためです。このまま設備投資意欲が回復せず、実績値が横ばい圏で推移したとしても、「前年の裏」に助けられる形で前年比伸び率は改善します。 当然のことながら、こうした前年比伸び率の縮小は見せかけの改善にすぎません。ただし、上述のとおり錯覚的だったとしても、人々の景況感が改善する可能性は十分にあります。工作機械受注に限らず、向こう半年程度は幾つかの製造業のデータが強めに出る可能性があるため、株式市場では製造業セクターを中心に業績底打ち感が意識されやすい時間帯になる可能性があります。
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