侮れない指標「工作機械受注」が示す景況感改善の予感
代表的な景気の先行指標である工作機械受注統計は、決して派手な経済指標ではなく消費者から縁遠いものでもあります。この受注額は下落が続いていますが、別の視点を加えると見え方が少し変わってくると第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストは指摘します。藤代氏の解説です。 【グラフ】日経平均が好調、バブル最高値も“射程” それって本当?
OECD景気先行指数とも連動性示す
日本工作機械工業会によれば、2018年の工作機械受注額は約1.8兆円です。これは日本の製造業売上高のわずか0.4%を占めるに過ぎない数値ですが、興味深いことにその受注動向は先進国経済の景気循環を忠実に映し出します。それは世界景気の代表的指標として広く知られているOECD景気先行指数(OECD=経済協力開発機構)との連動性をみれば一目瞭然でしょう。 工作機械とは自動車、スマートフォン、家電製品、デジタル機器、時計などに使われる主に金属製の精密部品を削ったり切断したりする際に用いられる機械です。いわば部品を作るための機械ですから、消費者から最も遠い存在といえ、製品最終ユーザーが工作機械メーカーの製品を目にすることはまずありません。 一見すると、地味な存在に思えるかもしれませんが、経済の文脈ではこうした「資本財」と呼ばれるモノの動向が極めて重要になります。一言でいえば、景気の波を作り出す企業の設備投資動向を反映するからです。消費者から最も遠いところにいる資本財は、裏を返せば、生産活動の最も初期段階にいるということです。したがって、その受注動向は景気の最先端を走ります。
目下の基調判断は「悪化」が妥当
こうして考えると、景気予測(株式市場)にあたって工作機械受注の動向を見極めることが、いかに重要であるかが分かります。そこで工作機械受注額の水準をチェックすると、直近の値は好不況の目安とされる1000億円を割り込み、2015~16年の中国経済減速局面(チャイナ・ショック)すら下回り、2014年当時の水準まで落ち込んでいます。 企業の設備投資は、省力化投資が依然として旺盛な需要を保つ一方、米中貿易戦争に対する不透明感などを背景に、先行きの慎重姿勢が強く、全体として抑制気味です。報道によれば、最近は次世代通信規格である5G関連需要が増加の兆しをみせている反面、自動車や精密機械などで弱さが続いている模様です。直近のグラフの波形を見る限り、目下の基調判断は「悪化」が妥当でしょう。