能登半島地震被災地で高まる感染症や心の不調リスク 災害関連死の防止へ学会や大学が情報提供
同研究所は「身体や心が影響を受けることは自然なことです」「自分を追い込まずに相談できる人を探してください」「ストレスから来る心や身体の問題は回復するものです」などと被災者らに語りかける「災害後のこころの健康のための8ヶ条~東日本大震災の教訓から」を公表している。
災害関連死を防ぐために
災害関連死が定義づけられたのは1995年の阪神淡路大震災がきっかけだ。内閣府による厳密な定義は「当該災害による負傷の悪化又は避難生活等における身体的負担による疾病により死亡し、災害弔慰金の支給等に関する法律に基づき災害が原因で死亡したものと認められたもの」となる。災害弔慰金の支給対象になる。
具体的には避難生活中のストレスや衛生状態の悪化などによる、心臓病や脳血管障害などの循環器疾患や肺炎、呼吸不全などの呼吸器疾患などが多い。避難中の車内でのエコノミークラス症候群やうつ病による自殺なども含まれる。東日本大震災では、約3800人が、熊本地震では約220人が地震から時間が経って亡くなっている。熊本地震では災害関連死は直接死の約4倍に上った。
災害関連死が心配なのは避難所だけでない。東日本大震災では、何とか津波被害を受けずに残った自宅や高齢者施設、病院での厳しい生活を強いられた人も多く亡くなっている。当時、関連死した人のうち、高齢者の多くは震災から数週間から数ヶ月以上経ってから命を落としている。
今回の能登半島大地震に関して高まる感染症や心の不調、さらに災害関連死に対して注意を呼びかけている学会や大学、研究機関の多くに共通しているのは災害後に身近な人や家屋などを失った喪失感や孤立感といった心理面での問題と窮屈な避難生活による環境の激変に対するケアの大切さだ。
必要な支援者や災害弱者へのケア
家族を含めた多くの知り合いや家を失い、見慣れた町や風景が一瞬にしてその姿を変える残酷な震災。多くの専門家は心身の不調が現われるのは人間の反応として自然なことと言う。地域や社会の長期的支援が何より求められるが、これまでの大震災の経験からは、寒さに耐えている被災者だけでなく、さまざまな形で過酷な現場で懸命に救助、支援活動をしている警察、消防、自衛隊や医療従事者の人々へのケアも忘れてはいけない。
東北大学災害科学国際研究所は「誰一人取り残さないためのインクルーシブ防災」を研究理念に掲げている。栗山進一所長(災害公衆衛生学分野教授)は、東日本大震災災害関連死の約4分の1は障害者だった統計を挙げ、今回の震災でも高齢者を含めた災害弱者に対するケアや支援の重要性を強調。災害前、災害直後の急性期から復興期を含めた「誰も取り残さない」ためのコミュニケーションが何より大切だと指摘している。 (内城喜貴/科学ジャーナリスト、共同通信客員論説委員)