「藤井将棋には凡局がない」八冠でも勝率.830でもなく…藤井聡太プロ8年“最大の才能”「ライバルの成長と物語もです」A級棋士・中村太地が語る
永瀬九段のインタビューに棋士として感じたこと
第2回から藤井七冠が相まみえた永瀬拓矢九段や佐々木勇気八段、伊藤叡王の対局などを取り上げてきました。その中で2024年に話題となったのが、永瀬九段が大川慎太郎記者に「藤井将棋と戦うことの覚悟」について語った記事でした。私も拝読しまして、藤井七冠が何を考えているのかを誰よりも理解して、いい将棋を指したい……全ての行動原理がそこにある状況なのだろうと感銘を受けました。永瀬九段としても、インタビューを受けて赤裸々に心境を話すことで、自らの将棋をいい方向に進めたいと考えたのかもしれません。 もし今回の王座戦をゴールだと捉えたとしたら、そこで終わってしまう。しかし棋士人生という勝負、そして生活が続いていくわけです。次に向けての準備――きっと永瀬九段ならば、王座戦が終わった翌日……いや、もしかしたら当日から動き出していたのでしょう。その一生懸命さがあるからこそ、年明けに開幕する王将戦の挑戦権も掴み取れたのだと思います。長期視点で、常に試行錯誤しながらいろいろなことにチャレンジして向かっていく。それが棋士として、自分の精神衛生を保つうえでも大事なことなのかなと感じます。 私自身、そういった経験があります。タイトル初挑戦の棋聖戦で羽生善治先生相手に3連敗のストレート負けを喫して、翌年の王座戦では2勝2敗としながらあと1歩で再び羽生先生の軍門に下った。〈もうおしまいなのか……〉と思いそうになりましたけど、4年後の王座戦で羽生先生とのリベンジマッチの舞台までたどり着き、王座を手にすることができました。自分が真摯に日々を向き合えば、物語は続いていく。それこそが棋士生活というものでは、と考えるようになりました。
八冠、勝率.830、最年少記録の偉業…その上で
物語性を持つのは、永瀬九段や私だけではありません。たとえば竜王戦でタイトル戦に初挑戦した佐々木八段もそうです。 デビュー当時の藤井四段が連勝記録に挑んだ一局、対局室の片隅でその様子を凝視する佐々木八段の姿は将棋ファンの記憶に強く残っているかと思います。将棋に対する情熱は当時からとても強かった中で、ここ数年は研究の深さや戦型選択などで凄まじさを感じます。 昔から天才、才能はピカイチと評される一方で、目に見える結果にはつながってこなかった。それが20代後半から30歳となった今、ギアが一段階上がって花開いてきた――そういったストーリー性に心を打たれるファンも多いのではないでしょうか。 2016年12月24日、当時14歳だった藤井四段が加藤一二三先生とのプロ初対局に挑んでから、丸8年が経過しました。2024年12月24日時点で「472対局391勝79敗 勝率.8301」という公式戦成績を残しています。その中で竜王位や名人位、連勝など数々の最年少記録、さらには八冠独占の偉業を成し遂げました。 これまでの藤井七冠について問われた際、画家のピカソ、そして大谷翔平選手や井上尚弥選手など超一流のアスリートなどとの共通点について言及したことがありますが……そろそろ藤井七冠が「偉人としてたとえられる」立場になるのでは? とひそかに思っています(笑)。
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