熊手、福も富もかき集めて 並ぶ露店から威勢の良い掛け声と三本締めの柏手の音 彩時記~11月・霜月
「家内安全、商売繁盛!」 縁起熊手が並ぶ露店から、威勢の良い掛け声と三本締めの拍手の音が響き渡る-。 【写真】老舗「藤い屋」のもみじまんじゅう 毎年11月の酉の日に立つ「酉の市」は、活気あふれる晩秋の風物詩だ。関東地方を中心に、各地の鷲(おおとり)(大鳥)神社で行われるお祭りで、江戸時代から続く。酉の日は12日ごとに巡ってくるため、2回ないし3回開かれ、今年は「三の酉」まである。 「本数を増やした分、今年は生産に時間がかかり、作業が遅れ気味。台風の影響で竹の仕入れが遅れたのも要因です」 埼玉県所沢市にある創業明治3年の熊手メーカー、「面亀(めんかめ)」の5代目、朝倉涼介さん(41)は表情を曇らせる。それもつかの間で、笑顔に変わり「お客さまに会える、わくわくした気持ちが強い。酉の市の前日はいつも、ろくに寝られません」。 工房の扉を開けると、目に飛び込んできたのが黄金の大判小判に米俵、打ち出の小づちに招き猫…。宝箱をひっくり返したような、まばゆい彩りに視線をそらすと、福々しいおかめのお面と目が合った。 熊手は、福や富を〝かき集める〟縁起物。竹製の本体に、これらの部品を一つ一つ飾り付け、めでたさで埋め尽くす。 初めは小ぶりのものを選び、大きなものに買い替えていくのが吉とされる。1年で役目を終えるが、「『おたき上げするのはもったいない』と思ってもらえるものを作るのが大事」と、朝倉さんは力を込める。 アフターコロナの酉の市は商売人だけではなく、一般の人たちの姿が目立つようになり、にぎやかさを増しているという。景気や運気が悪いときは良くなるように、良いときはもっと良くなるように-。人々は熊手を求め、願いを込める。 酉の市は昔から、売り手との値段交渉が醍醐味(だいごみ)の一つ。値切った分のおつりは受け取らず、売り手のご祝儀にするのが、いなせな流儀とされている。朝倉さんいわく「お互い気持ちよく、楽しく過ごすのが江戸時代からの遊びなんです」。 クライマックスは交渉成立を祝う三本締め。「丸く収める意味と、ここから1年がスタートする、という意味があります。1年後に笑顔で戻ってきてくれることを願い、その場で実りの象徴である稲穂を刺して熊手を完成させます」