鹿児島城西の“終わりなき旅”は続く!宿敵・神村学園の連覇を7で止め、涙の8年ぶりV!:鹿児島
[11.17 選手権鹿児島県予選決勝 鹿児島城西高 1-0 神村学園高 白波] 鹿児島城西が宿敵・神村学園を乗り越え、8年ぶりV! 第103回全国サッカー選手権鹿児島県予選決勝が17日に鹿児島市の白波スタジアムで行われ、ともにプレミアリーグ勢の鹿児島城西高と神村学園高が対戦。後半37分にU-17日本代表FW大石脩斗(2年)が決勝点を決め、鹿児島城西が1-0で勝った。鹿児島城西は8年ぶり8回目の全国大会出場。全国大会の組み合わせ抽選会は18日に行われる。 【写真】「全然違う」「びびるくらいに…」久保建英の9年前と現在の比較写真に反響 過去7大会のうち5大会で準優勝。鹿児島城西が、7連覇中の神村学園の壁をついに乗り越えた。新田祐輔監督が「もう素晴らしい存在です。ありがたいです。神村学園がいないと。私もサッカーをこんなに考えることはなかっただろうし、勉強もしなかっただろうし……」と語り、GK藤吉純誠主将(3年)が「もうひたすら3年間、ずっとライバルとして意識してきて、必ず倒したい相手でした」という神村学園から勝利。試合終了の笛が鳴ると、選手も、新田監督らコーチングスタッフも泣いていた。 神村学園は今年のインターハイ準優勝校でプレミアリーグWEST所属。U-18日本代表FW名和田我空(3年、インターハイ得点王)をはじめ年代別日本代表候補や高校選抜候補を複数擁しており、今大会は準決勝で伝統校・鹿児島実高に9-0で勝利するなど5試合64得点で決勝へ進出していた。決勝の先発はGKが清水怜(3年)、DFは中野陽斗(2年)、新垣陽盛(3年、U-17日本高校選抜)、黒木涼我(3年)の3バック。鈴木悠仁(3年、U-17日本高校選抜)と松下永遠(3年)のダブルボランチ、右WB金城蓮央(3年、23年U-17日本高校選抜)、左WB大成健人(3年、U-17日本高校選抜候補)、福島和毅(2年、U-17日本高校選抜)と名和田の2シャドー、そして1トップを岡本優翔(3年)が務めた。 一方の鹿児島城西は今年、初参戦のプレミアリーグWESTで揉まれ、後半戦は初白星を挙げるなど内容、結果も向上。決勝はGKが藤吉、DFは福留大和(3年)、常眞亜斗(2年)、浮邉泰士(2年)、吉田健人(2年)の4バック。中村颯太(2年)と重盛響輝(2年)のダブルボランチ、右SH別府拓眞(2年)、左SH野村颯馬(2年、U-16日本代表候補)、トップ下が柳真生(3年)、最前線に大石。2年生8人が先発する陣容だった。 神村学園は前半2分、右CKのクリアを拾った大成が右足ミドル。枠を捉えたが、鹿児島城西GK藤吉が弾き出す。また、10分には右中間の福島がドリブルでボールを運んでスルーパス。これで大成が抜け出すも、再び藤吉が立ちはだかった。 神村学園は鈴木、松下、福島を軸にボールを正確に繫ぎ、中央も見せながら金城、大成の両翼の攻撃力を活用。金城のロングスローや名和田のプレースキックを含めて相手にプレッシャーをかける。一方の鹿児島城西はなかなか攻撃の形を作ることができなかったが、ボールの取りどころを決め、コンパクトな守備。ファーストDFの寄せ、プレスバックを徹底し、中村颯が名和田を監視しながら、怠ることなくカバーリングする。 また、最終ラインでは10月にDFへ再コンバートされた浮邉が守備能力の高さを発揮。DF背後を狙ってくる相手を確実に止め続ける。加えて、コンビを組む常が要所を締めるなど、狙い通りに無失点で試合を進めた。 その鹿児島城西は前半24分、大石が右サイドで起点を作り、ラストパスに走り込んだ重盛が右足シュート。30分にも重盛が中央でDF2人を剥がして前進し、右サイドへ開いた大石へはたく。そして、大石が中への動きからパス。重盛からのリターンを受けて左足を振り抜いた。 これはGK清水の守備範囲に飛んだが、直後にも敵陣での奪い返しから柳が左足シュート。38分にも、左サイドで回収した野村を起点にサポートした吉田が攻め上がる。大石のキープから最後は右の別府が右足を振り抜いた。決定機だったが、神村学園DF黒木がブロック。それでも、鹿児島城西は前半半ば以降、徐々に速攻を繰り出す回数を増やしていた。 一方の神村学園は、切り替えの速い守備から連動した攻撃を継続。前半終盤もパス交換から松下が左足を放ったほか、金城、大成がゴールライン際へ潜り込んでラストパスへ持ち込むなど攻め続ける。だが、40+3分に右CKから黒木の放った右足シュートがクロスバーをかすめるなど、チャンスで決め切ることができない。 鹿児島城西の新田監督は試合後、「(神村学園は)みんな点が取れるから。(勝つためには)決定機っていうのを抑えるだけではなくて、(相手が)外さないと無理だ」と考えていたことを明かす。この日、鹿児島城西は指揮官が「最高でした」と絶賛するパフォーマンス。その堅守、最後まで身体を投げ出すなど諦めない姿勢が神村学園にゴール前でのプレッシャーを与えていたのかもしれない。 鹿児島城西は後半8分、別府をMF當眞竜雅(3年)へスイッチ。神村学園は10分、11分と右サイドから同じ形で岡本が抜け出すも相手CB常やGK藤吉に阻まれた。鹿児島城西も野村がクロスへ持ち込むなど対抗。だが、神村学園も存在感を放つ新垣をはじめ、中野、黒木の3バックを中心に堅い。 神村学園は20分に岡本とFW徳村楓大(2年)を交代。鹿児島城西は21分に野村とMF添島連太郎(3年)を入れ替えた。直後には速攻から添島と柳のコンビでチャンス。26分にも中村颯をMF中村慶登(3年)と交代し、相次ぐ3年生投入でチームを加速させた。同時に攻撃的に行く際に準備していたという3ボランチ、2シャドーに変えた形も機能。相手の3トップを3ボランチで抑えながら先制点を目指した。 対する神村学園は技巧の光る福島の好パスから名和田が仕掛け、30分には左CKの流れから金城が右クロス。ゴール前に落ちたボールを中野が右足で狙う。だが、鹿児島城西GK藤吉が横っ飛びで手に当て、クロスバーをヒット。神村学園はその流れから新垣の折り返しを中野が頭で狙うが、これも枠右へ外れた。すると、スーパーセーブの藤吉は雄叫びを上げながらガッツポーズ。5月のインターハイ予選決勝では、宿敵からの勝利目前でミス、逆転負けを経験している主将の魂のセーブだった。 31分、鹿児島城西は柳とMF出原昊茂(1年)を交代。迎えた37分、スコアが動く。鹿児島城西は敵陣で相手DFのクリアを添島が回収し、右外の福留へパス。縦へ仕掛けた福留がタックルをかわしてゴールライン際へ切れ込む。最後は平行のラストパスをファーの大石が気持ちで身体に当ててゴール。「みんなのゴール」という大石の5試合連続ゴールで鹿児島城西が先制した。 神村学園の名和田は鹿児島城西について、「物凄く粘り強いチームだったと思いますし、相手のプラン通りだったかなっていうのは……自分たちも押し込む時間帯が多かったんですけど、相手は粘り強く守って、最後の最後1本ものにされたので、勝負強かったなと思います」と説明する。 神村学園はギアを上げて反撃。39分には右サイドの名和田が強引にクロスを上げ切り、新垣がヘディングシュートを放つ。その後も相手の厳しいプレッシャーの中でボールを繋ぎ、金城が左足シュート。また、相手のミスから名和田がドリブルで仕掛けるが、鹿児島城西は浮邉、常が2人がかりで止めてシュートを打たせない。 インターハイ予選決勝で鹿児島城西は後半残り6分で先制も、喜び過ぎてやるべきことを徹底できずに逆転負けを喫している。この日は、奪ったボールを相手コーナー方向へ運び、新田監督も「今日、反省が活かされた」という残り時間の戦いで1-0。優勝が決まると、鹿児島城西の控え選手たちが一斉にピッチへなだれ込んだ。ベンチ前では膝をついて涙する新田監督中心に歓喜の輪。一方、神村学園の名和田は仰向けになって両手で顔を覆い、他の選手たちも暫く動くことができなかった。 鹿児島城西の新田監督は挨拶の際、身につけていたお守りを握りしめ、両手で拝むような仕草。鹿児島城西は小久保悟前監督(現鹿児島高監督)時代、選手権準優勝(2008年度)や選手権予選3連覇を経験しているが、2018年の新田監督就任以降は一度も全国大会出場がなかった。新人戦では神村学園に勝利しているものの、全国大会出場をかけた夏冬の県予選ではことごとくライバルの前に敗戦。だが、選手も「熱のある人」「チームの鏡」「素晴らしい監督」と評する指揮官は、奈良育英高監督として選手権3位の上間政彦氏や東福岡高を監督、総監督として日本一へ導いた志波芳則氏、東海大五高(現東海大福岡高)を選手権3位へ導き、岡山学芸館高の選手権日本一にも貢献している平清孝氏らに教えを請いに行きながら、挫けず、打倒・神村学園を目指してきた。 「色んな先生にサッカー教えてもらったんで、ほんとサッカー教えてもらって、遠征もさせてもらったし、それを諦めないでやったのが良かった」と新田監督。神村学園の背中を追い、県1部リーグからプリンスリーグ九州1部、プレミアリーグ昇格を果たして今年は相手のAチームと同じリーグで戦う機会を得た。 「最初は(ロングボールで)もうひっくり返してるだけで、それに対してプレッシングどう掛けるかだけど、そればっかりじゃなくてちょっと精度を上げて、今日はカウンターも良かったし、繋ぎも少しはできるようになってきてるし、(プリンスリーグやプレミアリーグで強豪と対戦する中でできることが)増えてきた」と頷く。そのベースは堅守。「神村のこの強烈なスタイルと違うのかがないとやっぱ生き残っていけないし、そこをずっと考えて、そのディフェンスのところでやっぱ違いが出せればなと思って7年間やってきました」。主力が全て卒業して迎えた今年は特に苦しい1年に。それでも、選手たちの意見を受け入れながらチーム力を高めてきた。藤吉は自分たちの力だけで勝ち取った優勝ではないという。 「今日勝てたのは別に今日出たメンバーが戦ったからではなくて。今までずっと先輩方が大切にしてくれた、ピッチ外の行動だったり、ピッチ内の戦い方だったりで。去年の先輩がしっかりとプレミアリーグに上げてくれて、神村学園さんと同じステージに立って1年間経験できたのが今日の勝ちに繋がったと思うんで、まずは感謝の気持ちを持っていきたいです」。先輩たち同様、日本一愛されるチームを目指して掃除や挨拶活動を継続しながら、トレーニングで努力。そして、壁を超えた主将は、「もう、今は何でもできる気がしますね」と微笑んだ。 新田監督は「今日、ゲーム前は『終わりなき旅』を大熱唱して出てきました。『今日、トビラ開けるぞ!』って。ミスチル(ミスターチルドレン)の。いつも練習でもして。これ、今年のテーマソングなんです」という。同曲の「閉ざされたドアの向こうに新しい何かが待ってるはずだから……」のフレーズなどを全員で大熱唱し、トビラを開けて8年ぶりV。鹿児島城西の「終わりなき旅」が選手権でも続く。