平安時代に死に別れた兄弟武士、900年後に末裔がまさかの〝再会〟 きっかけは新聞記事、記者もびっくり「ドラマのような偶然」
▽「90歳までに先祖の物語を」 一方、山内さんは意外にも全くの歴史嫌い。定年まで化学系の仕事を勤め上げた。しかし、ある時訪ねた図書館で、偶然手にした鳥取県の百科事典。「山内」を調べてみると意外にも祖先が活躍していたと知り、調べてみたいと思い立った。ただ、2008年ごろから手がけ始めた編集作業も、仕事や妻の介護でなかなか進まなかった。取り組み出すことになるのは22年から。「歴史音痴の私が歴史を調べていて、アホと違うかな?と思うこともありましたが、小野寺さんの作業を聞き、私も頑張らなくては思いましてね。小野寺さんのような方がいて家系図を証明する資料も手に入ったし」 ▽“弟”から励まされ… 山内さんは、長年愛用のワープロで表作成から執筆までこなす。しかし最近、執筆していた源平合戦の章が突然消えてしまった。「(ワープロが)もう古いですからね。機械も機嫌の良い時と悪い時がある」と苦笑する。たまたま校正のために該当の章を印刷していて助かった。今はコツコツとデータに入れ直す。このことは小野寺さんにも報告した。「気を落とさないで」と励まされたという。
山内さんは現在、90歳までに祖先の物語を完成させたいと目標を立てている。日本史の教科書に登場するような「平治の乱」「石橋山の戦い」に先祖が深く関わっていたという静かな感動。そして兄弟としてつながった感慨。歴史のドラマツルギーと命脈を感じずにいられない。自分のルーツを探る旅への好奇心はやむどころか、膨らむばかりだ。 文通は今も続き、「調べるのは大変だよ。でも諦めずに頑張りなさい」と小野寺さんは励ましてくれる。同じ先祖の歴史を紡ぐ存在が心強い限りだ。「できあがったら小野寺さんにも読んでもらいたい」。起・承・転・結の4巻からなる本の初稿は完成した。あとは確認作業を残すのみとなった。 【取材後記】私の記事が、900年前の兄弟を結びつけるとは… 私は大学時代に陸軍士官学校についての卒論を書いた縁で小野寺さんと出会い、記者になってから取材、2022年2月に「人モノ」の新聞記事を書いた。それを大阪日日新聞(2023年7月に休刊)で読んだ山内さんから「記事の小野寺さんと兄弟かもしれない」と弊社に問い合わせがあった時は、「まさか」と半信半疑だった。それが歴史資料に詳しい小野寺さんによって、先祖が兄弟だったと分かった時、ドラマのような偶然に驚いた。