全身全霊で働かない、三宅香帆が提唱する「半身で働く」方法
「半身のほうが頑張っている」
■「半身のほうが頑張っている」 ──では、どのように半身社会へシフトすればよいのでしょうか。 三宅:半身というと、生半可だ、楽をしている、と思われる人もいるかもしれません。ですが、全身全霊で仕事をするほうがある意味、楽なのではないでしょうか。半身とは、従来の1時間分の仕事を30分でこなし、残りの30分で別のことをするという意味でもあります。つまり同じ量の仕事を半分の時間で頑張らないといけない。そして仕事以外にも自分のアイデンティティを見出さなくてはいけない。短期的に見れば、半身のほうが大変です。 しかし20代は仕事に全力投球してもいいかもしれませんが、そのままでは年を重ねるごとに「私の人生は仕事だけでいいんだっけ」と壁に当たると思うのです。長時間労働で燃え尽き症候群に陥らないためにも、若いときに少し無理をしてでも、仕事以外の時間をつくることが必要なのではないかと考えています。 私は1994年生まれですが、同年代や下の世代を見ていると、家族に合わせてリモートワークを選んだり、パートナーのいる場所に合わせて仕事を選んだりしている人も多く、半身が良いとする価値観は広がってきていると思います。会社ではなく、自分の人生に合わせた働き方を選ぶほうがこれからの“イケてる”働き方になっていく気がします。働きながらも楽しい人生を送るために、全身全霊を称賛しない、むしろ「半身のほうが頑張っている」という価値観が広がることが必要になるのでは。 ──若いときの苦労は買ってでもしろ」といわれる社会で、がむしゃらに働く20、30代も多いのでは。これからの働き方に迷っている同世代に向けて伝えたいことはありますか。 三宅:私は人生のある時期に全身全霊で働くことを否定したいわけではありません。何かに夢中になって取り組むのは楽しい。ただ先が予測しにくい時代だからこそ、仕事で頑張った先になにがあるのだろうかと不安になることもあると思います。実際、業界の最前線で頑張っている同年代の人たちを見ていても、わかりやすい権威的な目標よりも、世の中への良い影響をどう残すか、社会においてどういう存在でいたいか、といったビジョンを重視する人が多い気がします。 仕事でつまずいても、仕事以外での居場所や楽しみがある人は回復が早い気がします。疲れたらいつでも回復できる社会、つまり「働きながら本を読める社会」にするために、私たちは半身を残しておくべきなのではないかと思います。 みやけ・かほ◎1994年、高知県生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。大学院在学中から文芸評論家として活動し、文学やエンタメなど幅広い分野で批評・解説を手がける。著書『人生を狂わす名著50』『娘が母を殺すには?』など多数。
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