過去最高の利益、原価率は減少…山崎製パンの値上げへの疑問 必要以上に消費者に負担を強いるものなのか、同社は「やむを得ず値上げをさせていただいた」と回答
原価率が減少し利益は過去最高に
商品1つ当たりどれくらいの原価がかかっているのかを、比率で示したのが「原価率」である。 前出の『ロイヤルブレッド』なら、パンを作るためにかかった原価は125円ということになる。 この原価率が値上げの正体を見抜く指標のひとつになる。なぜなら原材料費などの原価が高騰した場合、売り上げが一緒だとすると原価の金額増加に伴い、原価率が上昇するからだ。そこで原価の上昇分に適した値上げを行えば、原価率は元の水準に戻り、利益も担保される。だが、原価高騰を大幅に上回る値上げをした場合は、かえって原価率が下がり、利益が増える。 したがって値上げ後に原価率が減少している場合は、必要以上に消費者に負担を強いる値上げにより利益をあげている可能性がある。 実際、値上げがあった時期の山パンの業績を見ると、2022年度は原価率が上昇したが、2023年度は減少。販管費の割合も減少した結果、利益が2倍に増え、過去最高を記録した。 値上げにより、確実に収益をあげている傾向が現れているのが、山パンの食パン事業なのだ。食パン部門の売上高は表に示したように2021年度まで徐々に減少していたが、2022年度、2023年度は急伸し、売上高は1000億円を突破した。 この間、販売数量は6年連続減少しているが、平均単価は値上げで大きく上昇している。要するに、販売数量が減っているのに売り上げが伸びているのは、1斤当たりの単価を引き上げているからにほかならない。
「やむを得ず値上げをさせていただいた」
業績は改善しているにもかかわらず、さらなる値上げをする理由はどこにあるのか。山パンの広報に話を聞いた。 ──包装材料はパン1個当たりでどれくらいの金額になる? 「原価の構成は社外秘の情報なので答えられません」 ──2023年度の物流費の売上高比率、製造原価に占める人件費、販管費に占める人件費は、そこまで増加していないのではないか。 「今回の価格改定は2024年度の包装材料を含めた原材料費の高騰や物流費、人件費、エネルギーコストの上昇を受けてのものであり、2023年に価格改定を行った際には見通していなかったコストの上昇が理由となります」 ──販売数量の低下を値上げによりカバーして、増収増益につなげているのではないか。 「販売数量の低下が値上げ理由に含まれることは一切ありません。 値上げすると、販売数量が減る懸念が高まりますが、原材料費の高騰に伴い、従来のままの価格で提供することが難しくなってきたため、やむを得ず値上げをさせていただきました。 ただ、一方的に値上げをするだけではなく、節約志向や低単価志向のお客さまも多いですから、そういった層に向けた新たな製品を投入しています。 また、値上げ価格についてきてくださるお客さまには、さらに満足感を得てもらえるように品質を向上させるような施策、戦略を同時に行いました。そうした取り組みが結果的に受け入れられ、順調な業績につながったのが実態だと考えています」 ──それでも、値上げに踏み切らざるを得ない事情というのはどういったところにあるのか。 「先ほどお伝えした通り、企業努力だけでコスト上昇を吸収することが大変難しい。値上げを避けられない状況になっているため、やむを得ず、主力品を中心に一部の製品を値上げさせていただくということを発表させていただきました」 つまり2023年度の業績はよかったが、足元のコスト上昇は値上げが避けられないほどに逼迫しているということである。しかし、今年度の9月までの実績が過去最高を更新したのは前述の通りだ。そればかりか、2024年度は前年比を上回る利益を上げる計画が立てられているのである。 今年9月までの山パングループ全体の業績を見ると、前年に比べ原価率、販管費率は減少し、利益は4割増となっている。苦しいどころか、好調に利益を伸ばしているのが、数字が示す客観的な状況である。 山パンの値上げにはまだまだ疑問が残る。消費者に苦境を訴えて価格転嫁する一方で、他方では驚くべき「大盤振る舞い」をしているのだ。(次回に続く) ※女性セブン2024年12月19日号
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