富士ソフト「物言う株主」に翻弄された数奇な運命 ファンドの争奪戦で創業家と会社が対立構図に
■“持つ経営”にこだわった創業者 経営者として、野澤氏にはもう1つのこだわりがあった。「持つ経営」だ。 富士ソフトは秋葉原、横浜、錦糸町といった駅前一等地にある高層ビルを筆頭に、国内主要都市に自社オフィスを擁する。野澤氏は前掲書で、「人を大事にする。そして活躍してもらうためには、こういう自社ビルというのは、何より社員が一番喜びます」と語っている。 団地の一室で、社員と顔と顔を突き合わせるような形で事業を始めた野澤氏にとって、オフィスは特別な意味を持っていたのかもしれない。
しかしこの「持つ経営」が、アクティビストを呼び寄せる一因となった。2022年3月に筆頭株主に躍り出た3Dは、富士ソフトが保有資産を活用できず、競合他社と比べて資本効率が低い点を問題視した。不動産投資分を本業に回すほうが会社の成長に寄与する、という主張だろう。 アクティビスト対応に詳しいデロイトトーマツエクイティアドバイザリーの古田温子社長は、「(一般論として)アクティビストの中でのテーマの1つが『創業家』だ。創業家のガバナンスで大きくなり、上場を果たした歴史がある会社でも、時価総額や機関投資家の存在が大きくなると、一般的なガバナンスに変えていかないといけない部分もある。会社の成熟度が追いついていない(隙がある)場合、アクティビストに突かれやすい」と話す。
ゴールドマン・サックス証券出身の長谷川寛家氏が2015年にシンガポールで立ち上げた3Dについて、ある業界関係者は「オーソドックスで洗練されたアクティビストだ。最終的に(自身の要求を対象企業にのませるようなかたちで)確実に仕留めに行っている印象がある」と評する。 2022年以降、3Dは自社が推薦する取締役の選任などの要求を強めていく。同年3月の株主総会では、長谷川氏を含む2人を取締役に選任するよう求める株主提案を行い、結果は否決。同年12月の臨時株主総会でも新たに4人の取締役選任を求めたが、このうち富士ソフトも支持した人物を除いた2人の提案は否決された。