ジャガーとブガッティを愛した男の夢 パンサー:J72からカリスタまで 旧式な姿+現代の走り!
刺激的な前方視界 サウンドもSS100へ近い
今回ご登場願ったダークグリーンのJ72には、4.2Lエンジンが載っている。ヴァル・ブリッジ氏がオーナーで、北米からグレートブリテン島へ戻ってきた1台だという。 どの角度から眺めても、SS100のイメージと重なる。フェンダーやヘッドライトなどのディティールに、独自性も見られるが。 小ぶりなドアを開き、大きめのレザーシートへ腰を下ろす。座り心地は良く、作りは丁寧だ。メーターにはジャガーのロゴが入る。ボンネットが長く伸び、刺激的な視界が前方へ広がる。 ブリッジのクルマは3速ATだが、加速は活発。左側から、サイド排気のサウンドが直接響く。その音色もSS100に似ている。緩やかなカーブが連続する郊外の道を走らせれば、想像以上に楽しい。 ステアリングにはパワーアシストが備わり、反応はダイレクトで正確。乗り心地は基本的にしなやかだが、荒れた路面では落ち着きが失われ、操舵にも影響が出てくる。風の巻き込みが大きく、80km/h以上の速度では相当の忍耐力も必要だ。 ロバートは、スタイリッシュなクルーザーとして生み出した。気張らず田舎道を流せば、通行人が笑顔で見つめてくれる。
ロールス・ロイスより高価だったデヴィル
それ以上に多くの注目を集めたのが、余り売れなかったデヴィル。1974年のロンドン・モーターショーで発表され、当時の英国価格は1万7650ポンドから。これは、ロールス・ロイス・ファントムVIやランボルギーニ・カウンタックより高かった。 ロバートは、ブガッティを創業したエットーレ・ブガッティ氏を深く尊敬していた。不自然なほど長いボンネットと、卵型のラジエターグリルなどは、ブガッティ・タイプ41 ロワイヤルへのオマージュといえた。 車重は約2tあり、アメリカの安全規制へ対応するバンパーも含めた全長は5190mm。フロントには、ジャガーの5.3L V12エンジンが鎮座する。 シャシーは独自設計のラダーフレーム。サスペンションは前後とも独立懸架式になり、ジャガーXJの構成へ近づいている。ボディはハンドビルドのアルミ製で、サルーンではオースチン1800用の、コンバーチブルではXJ-C用のドアが流用された。 インテリアはフルレザー。カーペットは毛足の長いウールで、ウォールナット・パネルが各部を彩った。エアコンは標準装備。オプションで自動車電話、カクテルキャビネット、テレビとビデオデッキも選択できた。1台の完成に9か月を要したという。 ピーター・ワード氏は、48台が製造された内の1台、1981年式デヴィル・サルーンを所有している。ボディサイドのランニングボードとホワイトウォール・タイヤ、丸く膨らんだフェンダーラインがエレガントだ。 この続きは、パンサー:J72からカリスタまで(2)にて。
サイモン・ハックナル(執筆) マックス・エドレストン(撮影) 中嶋健治(翻訳)