【糖尿病を悪化させる歯周病】寝酒をしてそのまま眠ると歯周病進行の原因に 重要なのは、歯垢の除去と毎日の歯磨き【医師が解説】
歯周病が糖尿病を悪化させることがわかっている。それを防ぐには、食後の歯磨き、定期的な歯周病検査と歯垢除去に加え、ストレスを減らして禁煙で免疫低下を防ぐことなどが大切だ──。シリーズ「名医が教える生活習慣病対策」、日本大学松戸で歯周病治療学講座を受け持つ小方頼昌教授に話を聞いた。【糖尿病を悪化させる歯周病・後編。前編から読む】 【表】歯周病にならないための日常生活のポイント7
一度下がった歯肉を元の位置に戻すのは難しい
歯周病は、歯周病原菌に感染しプラークを形成していることに加え、環境因子(ストレス、タバコ、食生活、睡眠など)と身体の状態(免疫力、体質など)の3つが作用して発症・進行していきます。歯周病原菌に感染しても免疫力が高く、環境因子が良好であれば発症しないか、発症しても治療で改善することもあります。 歯周炎であるかどうかは、ポケットの深さが4mmを超えるかで診断します。ポケットの検査はプローブという先端が細く目盛りが付いた金属の器具を用います。プローブの検査は歯1本に対して6か所、歯をすべて検査するには168か所以上の計測が必要です。 しかし、歯肉が腫れていてポケットが深くなっていたり、計測中の出血によって正しく深さが測れないこともあります。いかにして正確にポケットの深さを測ることができるかがその後の治療に関わってくるので、プローブによる歯周病検査は日本歯周病学会の認定医か歯周病専門医に実施してもらうのが安心でしょう。 プローブ検査に加えて、レントゲンで歯の周囲の骨があるかどうかを確認します。仮に骨が吸収されて少なくなっている場合は、手術による治療も選択できます。歯と歯肉の境界を切開し、そこに細胞成長因子を留置すると半年程度で骨の再生が見られます。ただし、骨の再生は可能ですが、一度下がってしまった歯肉を元の位置に戻すことは難しいのが現状です。
歯周病は全身に悪影響を与える
歯周病の最も重要な治療は、歯垢の除去と毎日の歯磨きです。ポケットの中に付着している歯垢は、歯周病専門クリニックで歯科医師や歯科衛生士に定期的に除去してもらう必要があります。これにより炎症が収まり、歯周組織の破壊を食い止め歯が抜けるのを防止することにつながります。 また、日常的にできることは歯を磨くことです。歯と歯肉の境界付近をしっかり磨き、プラークを取り除きます。さらに歯肉をマッサージすることも大切です。このため歯磨きには2種類の歯ブラシを用意して使い分けることがポイントになります。 歯の表面をみがく歯ブラシは、歯の表面にフィットして、しっかりプラークを落とすことができるものを選びます。歯ブラシがあまり固すぎると、歯の表面のエナメル質を削ってしまうこともあるので注意が必要です。普通の硬さのものを選びましょう。 もう1つのポイントは歯肉用歯ブラシです。毛先が細くポケットに入り、中の歯垢を掻きだすことができるタイプを選ぶようにしましょう。ブラシの毛先を直接歯肉に当ててマッサージして引き締めることで、歯周病原菌が体内に侵入するのを防ぎます。 中高年の男性は、時に寝酒をしてそのまま眠ってしまう方もいます。これは歯周病を進行させる大きな原因となります。お酒を飲んでも、歯を磨いてから就寝することが歯周病の進行を防ぎ、さらに糖尿病の悪化を抑制します。 歯肉が下がって根が露出すると歯の根元がう蝕(虫歯)になる例が増えてきます。放置すると歯を失う原因にもなるので、歯の根元が黒くなっていることを発見したら歯科医の受診が欠かせません。 歯周病は、糖尿病のみならず全身に悪影響を与えます。食後の歯磨きに加え、歯科医を定期的に受診し、歯周病検査とともに歯垢を除去してもらいましょう。さらにいえば、ストレスを減らし、喫煙をやめることで免疫低下を防ぐことも重要です。 (糖尿病を悪化させる歯周病・前編から読む) 【プロフィール】 小方頼昌(おがた・よりまさ)/1984年日本大学松戸歯学部卒業。1988年東京医科歯科大学大学院歯学研究科修了。1992年よりカナダトロント大学歯学部に留学、歯周生理学を研究。日本大学松戸歯学部歯周病学講座教授などを経て、2020年同大学松戸歯学部第13代学部長に就任(~2023年)。現在は同大学歯学部歯周治療学講座教授。 取材・文/岩城レイ子
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