【毎日書評】安さだけじゃないサイゼリヤ、当たり前の品質をどこでも提供できる秘策
ライバルは見ない、見るのはお客さまだけ
サイゼリヤにはもともと他社を見るとか、競合に勝とうという発想がありません。ライバル企業を分析して自社の戦略に役立てよう、他社がこうやっているから自分たちはこういうメニュー構成でやっていこう、といった比較すらほとんどおこなわれてなくて、「おいしいのできたから、食べてみて」がすべての基本なのです。(126ページより) 一度でもサイゼリヤを利用したことがある方なら、充分に納得できる話ではないでしょうか? つまりサイゼリヤの視野にはお客さまと自分たちしかなく、同業他社と競争している感覚がないということ。 そんな会社なので、競争や競合に「勝つための戦略」ということば自体が似つかわしくないと著者は述べています。 誰かに勝つためになにかすることはないけれど、「おいしいから食べてみて」を続けるためには、容易なことでは倒れないことが必要なのだとも。すなわち「勝つための戦略」が存在しない一方、「負けない戦略」は求められるということです。そのバランス感覚に、この会社の秘密があるようにも思えます。 相手に勝とう、勝とうとする企業が目指すのは、(他社よりも)魅力的な商品やサービスです。品質が顧客満足度に与える影響を分類した「狩野モデル」(筆者注:顧客満足度につながる商品やサービスの品質を可視化し、それぞれの特徴を記述したモデル)では、これを「魅力的品質」と呼んでいます。 しかし、魅力的品質には落とし穴があります。そのサービスを受けたお客さまにとって、次第にそのサービスは当たり前になっていくのです。(127ページより) いいかえれば、「なくてもかまわなかった」ことが、「ないと不満になっていく」ようになるということ。したがって、魅力的品質を通じてお客さまを惹きつけるためには、つねに新たなサービスを導入することが必要。サイゼリヤは、それを続けているのでしょう。(126ページより)
「当たり前品質」を当たり前に提供する
一方、本来「あって当たり前」で、「ないと不満」を感じるような「当たり前品質」では、つねにベースラインは一定です。 そこさえ外さなければ、お客さまの評価は変わらない。当たり前品質を当たり前に提供すること。ただしどの店でも変わりなく、というところがミソで、国内1000店のサイゼリヤが目指しているのは、まさにそれなのです。(127~128ページより) 多店舗化を視野に入れていないような個人レストランでは、魅力的品質を追求してライバルとの差別化をはかることはよくあるもの。しかし、味や盛りつけを洗練させてみたり、毎回一期一会のサプライズ演出を心がけたりすることは、諸刃の剣になりやすくもあります。 味を売りにしている店ほど、味が変わったときの評価が厳しくなるのがそのいい例。 しかし飲食店にとって、「昔はおいしかったのに、店主が/シェフが/仕入れが変わって味が落ちた」というような評価ほど恐ろしいものはありません。 事実、一時期は「おいしい」と評判になってメディアでも紹介されたような人気店が、数年後には姿を消してしまうということはよくある話。そう考えても、「当たり前品質」で統一したほうがブレがなくていいわけです。(127ページより)