『光る君へ』渋る一条天皇を説得して藤原道長を関白にしようとした姉の詮子、『大鏡』に記されている「強烈な言動」
『源氏物語』の作者、紫式部を主人公にした『光る君へ』。NHK大河ドラマでは、初めて平安中期の貴族社会を舞台に選び、注目されている。第18回「岐路」では、藤原道隆のあとを継い で関白となった藤原道兼も病死。次の関白は藤原伊周か、あるいは藤原道長か、と注目されたが、道長にその気はなく……。今回の見どころについて、『偉人名言迷言事典』など紫式部を取り上げた著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部) 【写真】一条天皇の陵墓がある京都・龍安寺 ■ 意外なほどに悲しかった「道兼の最期」 物語を通じて、登場人物たちの成長をいかに描くかが、ドラマのシナリオにおいては非常に重要となる。その点、『光る君へ』は、登場人物の心境の変化が丁寧に描かれているように思う。 今回の放送では、藤原道兼が兄の道隆から関白の座を引き継いだ途端に病死してしまう。道兼が早々に亡くなり、「七日関白」に終わることは史実として分かってはいたが、まさか道兼の死にこれほど心を揺さぶられるとは想像もしなかった。 第1話のラストで「まひろの母を殺す」という衝撃的な展開で視聴者を惹きつけて以来、その犯人である道兼への許しがたい怒りの感情は、いつしか「父の兼家に気に入られようと必死なんだ」という哀れみの気持ちに変わり、さらに疫病の悲惨さを自ら見に行く姿には「道兼の治世を見てみたい」とまで思うようになっていた。
■ 定子のために兄の伊周に気を配った一条天皇 ドラマでは「こたびは右大臣・道兼を関白といたす」と、塩野瑛久演じる一条天皇が、三浦翔平演じる内大臣の藤原伊周(これちか)に説明。さらに状況をこう伝えている。 「右大臣を差し置いて、内大臣を関白となせば、公卿らの不満が一気に高まるは必定。公卿らが二つに割れることを朕は望まん。すまぬ伊周」 一条天皇がわびてまで丁寧に伝えているのは、伊周が最愛の妻・定子の兄にあたるからにほかならない。 『大鏡』でも「帝、皇后宮をねんごろに時めかさせ給ふゆかりに」、つまりは「帝が、定子を心からご寵愛なさるために」と一条天皇の定子への思いを記しながら「帥殿は明け暮れ御前に候はせ給ひて」と、伊周はいつも一条天皇のそばにいたと説明している。 一条天皇の気持ちについて、『大鏡』ではさらにこう説明されている。 「皇后宮、父大臣おはしまさで、世の中をひき変はらせ給はむことを、いと心苦しう思し召して、粟田殿にも、とみにやは宣旨下させ給ひし」 (父を亡くしているなかで、世の中の情勢が定子にとって一変してしまいはしないかということを、帝はたいそう気の毒にお思いになられて、道兼にも、すぐに関白の宣旨をお下しにならなかった) つまり、一条天皇が道兼の関白就任を渋ったのは、対抗馬となった伊周の才を惜しんだわけでもなんでもなく、ただ父を亡くしたばかりの妻の定子を思いやってのことだった。ドラマでも、そんな一条天皇の思いはよく伝わってきた。 ナレーションで「一条天皇は道兼を関白とする詔を下した。道隆の死から17日後のことだった」と説明がなされたように、一条天皇はようやく決断し、道兼が関白に就任することとなった。