傑出した存在がいない。U-23日本代表が露呈した限界。スペインにはフェルミン・ロペスがいた【パリ五輪/西部の目】
U-23日本代表は現地時間2日、パリ五輪(パリオリンピック)2024・男子サッカー競技の準々決勝でU-23スペイン代表と対戦し、0-3で敗北。メダル獲得の希望は潰えた。内容はスコアほど差があったわけではないが、大岩剛監督率いるチームは限界を露呈してしまったのかもしれない。(文:西部謙司) 【決勝トーナメント表】パリ五輪 男子サッカー
スペインにはフェルミン・ロペスがいた
0-3の完敗スコアだったが、内容的にそこまでの差は感じない試合だった。U-23スペイン代表がもっとボールを支配する展開を予想していたが、U-23日本代表の攻守がそれを許さなかった。 11分の先制後にスペインがやや受けに回った感はあるが、日本も落ち着いてキープして攻め込み、高い位置のプレッシングでボールを奪うことも何度かできていた。互角まではいかないまでも、接戦に持ち込めるだけの力は示していた。 スコアが開いたのはフェルミン・ロペスの存在が大きい。 スペインのメディアから傑出した選手がいないと評されたとおり、日本にはフェルミン・ロペスに対抗できるタレントはいなかった。フェルミン・ロペスは先制点と2点目をゲットしてチームをリード。日本のプレスがはまった状態から股抜きで外して打開するなど、随所に格の違いを示していた。逆に言えば、日本にとって脅威だったのは彼だけで、もしフェルミン・ロペスがいなければまた違った内容、結果になっていたかもしれない。 この試合に関しては飛びぬけた存在がいないことが差になったわけだが、それまではそうした選手がいないのはむしろプラスに働いていた。高いレベルで粒が揃っていることで、いわゆる目が揃った状態を作りやすく、誰がプレーしても一定のレベルをキープできる総合力は日本の長所だったわけだ。 内容的にスペインを相手に競った試合ができたのはその効果だった。一方で、点差を開けられ完敗となったのは、チーム編成の限界を露呈したともいえる。
VARによって繰り返されてきたむなしい光景
ターニングポイントになったのは40分の細谷真大のゴールがVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)でオフサイドと判定されたことだろう。認められていればこの時点で1-1に追いつけていた。 試合開始から15分ほどはスペインがボールを支配して攻め込む流れだったが、それが途切れると日本が攻勢に転じて攻め込む流れに変わっていた。 40分、藤田譲瑠チマからペナルティースポットあたりでDFを背負う細谷の足下にシャープなパスが入る。細谷は懐にボールを収め、背中でDFを制して、ボールを隠しながら反転してシュート。ストライカーらしい見事な得点と思われた。しかし、パスを受ける際に細谷の足が背後のDFよりわずかに前に出ていたためにオフサイド。得点は認められなかった。 機械判定でなければわからないオフサイドだ。トップレベルの試合で定着したVARにはいまだに賛否両論があるが、その負の方の部分が現れた典型的なケースである。 誰も気づいていない数センチのオフサイドのせいで素晴らしいゴールが無効になる。サッカーの醍醐味が帳消しにされる。シューズが数センチ出ていたところで、それが何ら攻撃に利益をもたらしたわけではなく、守備側にとって不公平でないにも関わらず。 しかし、オフサイドか否かはそうした主観とは無関係であり、たとえ1ミリでもオフサイドならオフサイドでしかない。ファクトがすべてなのだ。そして、その事実を認定する能力は人間より明らかに機械の方が優れており、人はただ機械が示した事実を受け入れるほかない。これまで何度か繰り返されてきた何ともむなしい光景がまた1つ追加されていた。大げさに言えば、予想される人類の未来の中での暗い部分を見せつけられた気分になる、近年のサッカーでよくある場面の1つといえる。