『ゴジラ-1.0』はなぜ怖いのか 山崎貴監督「ディテールの徹底追求、錯覚生む」
■「人は生の体験を求めている」
――本アワードの2024年のテーマは「五感を刺激する」です。今の『体感』のお話はまさにそこに通じるものだと思います。山崎さんのVFXを駆使した映画もそうですが、人工知能や仮想空間の出現など、人間が体験できるデジタル世界が急速に広がっています。そうした中で、映画のあり方はどのように変わっていくとお考えでしょうか。 「『ゴジラ-1.0』は、IMAXやドルビーシネマ、4DXなど、日本で上映できるラージフォーマット(特殊上映形式)をすべて制覇しました。いま映画を劇場で見るとこれだけの体感ができるということをきちんと証明したかったからです。ただ、最近Apple Visionのイマーシブ(没入感)ビデオを体験してみたんですが、とてつもない臨場感に本当に驚いた。要は、ものすごく進化したVR(仮想現実)映像みたいなものなんですが、あれ用に怪獣映画を作ったらものすごいことになるでしょうね」 ――そうしたデジタル技術の進化によって、人間の五感は退化するのでは、という指摘がある一方、逆に進化するのではないかと考える人もいます。山崎さんはその辺りについて、どのようにお考えですか。 「例えばその場所に行かなければできないような体験が、現実と比べても遜色ないようにできてしまった場合、人は本当の場所に行きたいと思うのだろうか。また、本当の場所に行ったときに、何か違う体験ができるのだろうか。そういうことは、ものすごくよく考えますね」 「何かの理由があって、旅行に行けない人にはものすごくいいことだと思うんですが……。その場所にたどり着いて体験することと同質のものを部屋の中で体験してしまったら、それは人間にとっていいことなんでしょうか。映画にしろ音楽ライブにしろ、やはり苦労して出掛け、一定の時間を差し出したからこそ、貴重な体験になるんだ、という気もしています」 ――そうした生の体験には、時間や空気を共有する楽しみもあるような気がします。 「その生の体験を、人は絶対求めているんですよ。でも、映像世界はイマーシブビデオのようにとんでもない進化をしている。ボク自身、そっちはそっちで大好物のジャンルなので葛藤はありますが、今は多くの皆さんに劇場へ足を運んでもらうような映画作りに全力を傾けたいと考えています」