『ゴジラ-1.0』はなぜ怖いのか 山崎貴監督「ディテールの徹底追求、錯覚生む」
SUITS OF THE YEAR 2024 受賞者インタビュー(1)
「SUITS OF THE YEAR 2024」の受賞者インタビューを5回にわたって掲載する。イノベーション部門を受賞した山崎貴監督は、VFX(視覚効果)を駆使した映画制作の第一人者だ。『ALWAYS 三丁目の夕日』、『永遠の0』、『アルキメデスの大戦』などの話題作を次々と手がけ、監督・脚本・VFXを務めた『ゴジラ-1.0(マイナスワン)』(2023年公開)では第96回 アカデミー賞 視覚効果賞を受賞した。このほどゴジラシリーズの新作映画で再びメガホンを取ることが発表されたばかり。『ゴジラ-1.0』はなぜ世界中の人の心をつかんだのか。また監督という現場を引っ張るリーダーとしての心得、今後の抱負などについて聞いた。 【写真はこちら】山崎貴監督が「視覚効果的に面白い」と評したスーツ、全身からディテールまでチェック!
■ゴジラは、ずっと自分の最終目標の1つだった
――『ゴジラ-1.0』は映像、音響ともにすごい迫力でした。一方でほろりとする感動的なシーンがあり、ストーリーそのものも大いに楽しめました。もともと山崎さんはゴジラのファンだったそうですが、自らゴジラの映画を作りたい、と心に決めたのはいつごろのことですか。 「子供の頃から映画の特撮監督になるのが夢で、実際に今の仕事に就いてからも、ずっと最終目標の1つはゴジラだと思っていました。実は一度、『ALWAYS 三丁目の夕日』の続編(2007年公開『ALWAYS 続・三丁目の夕日』)で、フルCG(コンピューターグラフィックス)のゴジラをゲスト出演させたことがあります。そのとき、わずかなシーンなのにVFX制作に6カ月もかかってしまいまして。なので当時、戦略的にも今は作る時期ではない、と判断し、いったんゴジラ映画を撮る夢は封印したんです」 「その後も、東宝の方から『そろそろゴジラをやりませんか?』みたいな話もされていたのですが、決心がつかないというか、まだ早いよな、とか思っているうちに、ハリウッド版のゴジラはできるわ、『シン・ゴジラ』はできるわ……。特に『シン・ゴジラ』の出来が良すぎて、誰が次のゴジラを作るにしろ、あれに続くのは大変だぞ、と(笑)」 「でも、『アルキメデスの大戦』という作品で戦艦大和が沈むシーンを撮っていたとき、大和の向こうにゴジラの幻影が見えた気がしたんです。そうか、戦争とゴジラという、切っても切り離せない関係性にフォーカスを当てればいいんじゃないか、とぼんやりしたアイデアが思い浮かんだんですね。そんなときにタイミングよくお話をいただき、『わかりました。やりましょう』となったわけです」 ――『ゴジラ-1.0』はメッセージ性のあるストーリーが世界中の人々から絶賛されましたが、そもそも観客の心をつかんだのは、やはりあの迫力ある映像だと思います。VFXの本場である米国で、アジア映画として初めて第96回 アカデミー賞 視覚効果賞も受賞しています。ここまでの映像が撮れた理由を、ご自身ではどう分析されますか。 「今まで培ってきたテクニックを『ゴジラ-1.0』に存分に生かすことができたからだと思います。昭和の街並み、クリーチャー、そして戦艦の描写など、過去の作品で苦労して取り組んできたことが、図らずもゴジラの前哨戦になっていました」 「その中でひとつ、新たに実現できたことを挙げるとすれば、ゴジラの間近に寄ったシーンを撮影できたことでしょう。これはフルデジタルでゴジラを作り、リアリティーを格段に高められたおかげなんです。『ALWAYS 続・三丁目の夕日』の頃に比べてデジタル技術が飛躍的に進化し、ゴジラに非常に細かいディテールを加えられるようになりました。だからあんなにアップで登場させることができたんです」 「平面像を立体に形作る職人の『モデラー』に、すごく腕のいい人を見つけたことも大きいですね。このクラスのVFX映画は、ほぼ職人の闘いといってもいいんですよ。CGはコンピューターが勝手に作ってくれるイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、とんでもない。ものすごく手工業的な技術に支えられているんです。だから、一流の職人が見つかったことはすごく大きかった。彼がいれば、自分の思い描いた通りのディテールを備えたゴジラが作れるぞ、と」