英国でも日本でも「静かな離職」進行中 従業員のエンゲージメントレベルアップは上司次第
英国で50兆8,500億円、世界で136兆8,000億円の損失
従業員が離職を躊躇し、「静かな離職者」は増え、そのコストは無視できないものになってきている。 マッキンゼー社の調査で、「静かな離職」によるコストと、実際の離職によるコストとが、ほぼ同額になることがわかった。平均的な大企業の場合、賃金総額の約4%に上ると試算している。ギャラップ社のレポートによれば、2023年にその金額は、英国では2,570億ポンド(約50兆8,500億円)に上ったという。ちなみに、低いエンゲージメントレベルが世界経済にもたらす損失は、ギャラップ社の推計で、8兆9,000億ドル(約136兆8,000億円)に上るそうだ。 英国全土にわたる、企業、労働者、コミュニティにとっての生産性について研究する組織、プロダクティビティ・インスティチュートによる、2023年の「プロダクティビティ・アジェンダ」によれば、英国は生産性が低いのはもちろん、伸びが特に問題だという。2010年から2022年までの、労働時間1時間当たりGDPの年間平均伸び率はわずか0.5%。将来的に人々の生活水準を向上させるには、年間生産性成長率を約1.5%以上に高めなくてはならないそうだ。
企業は、マネージャーを上司ではなくコーチとして再配置すべき
ギャラップ社の調査によれば、世界中の職場のエンゲージメントの差異の約70%は、マネージャーに直接起因しているそうだ。 その傾向は日本においても明らかだ。ギャラップ社が日本の従業員を対象に、職場について尋ねたところ、上司への意見が相次いだという。仕事の指示、フィードバック、仕事の目的などを聞かされておらず、上司とコミュニケーションがとれないことを問題視する意見が目立った。ほかには、仕事に大きな影響を与えるのは、会社のシステムや経営幹部ではなく、直属の上司だという意見、マネージメント能力がない人がマネージャーになっているという批判も挙がった。 同社のワークプレイス部門の主任研究員であり、職場の有効性についての多くの著作もある、ジム・ハーター博士は、マネージャーが、従業員を励ますという役割を発揮する必要性は、今まで以上に差し迫っている。マネージャーのエンゲージメントレベルと、従業員のそれは正比例するそうだ。企業が従業員のエンゲージメントレベルを上げる1つの方法は、職場で効果的に従業員に指導できる才能とスキルを持つ管理職を選び、育てることだそうだ。そしてもう1つは管理職の責任を再定義すること。常に従業員との会話やフィードバックを通じて、管理業務から指導に移行することだという。 ギャロップ社の主要パートナー、アナ・ソーヤー氏もハーター博士と同意見だ。企業は、マネージャーを上司ではなくコーチとして再配置すべきと、ビジネスリーダー向けに情報を発信するウェブサイト、ラコントゥアに話している。マネージャーは従業員の業績評価をするのではなく、各人に対して何を期待するかを明確にすること、定期的に話し合うこと、そしてそれぞれの仕事を会社のより大きな目標と結びつけることといった、従業員の心理的ニーズに対応することが、エンゲージメントレベルの向上につながるとソーヤー氏は強調している。 世界の金融テクノロジー業界向けの独立系通信社、Finextraも、従業員は仕事の意味と目的の面で、雇用主や上司に多くのことを期待していると指摘する。自分は何を期待されているのか、仕事の目的は何なのか、所属するチームとのつながりと支援が感じられるかは、人間の普遍的なニーズであり、それを満たすのが上司のあるべき姿だとする。これらが満たされれば、人は必然的にモチベーションが上がり、革新性・創造性を持って、情熱的に物事に対処するはずだという。 上司は、従業員のエンゲージメントレベルが低いと批判する前に、自分が十分に従業員とコミュニケーションをとっているかどうかを考えなくてはいけない。そして企業はマネージャーの役割を再考すべきだろう。
文:クローディアー真理/ 編集:岡徳之(Livit)