シリアに軍事介入 ロシアはなぜアサド政権を守ろうとするのか?
●チェチェンへの飛び火
これ程までのプーチン大統領のシリアのアサド政権支持の背景に何があるのだろうか。その大きな理由の一つは冒頭で既に述べた。シリアのロシア系市民の存在である。人間という面から見れば、第二にイスラム急進派で戦うチェチェン人などのロシア出身者の存在がある。その数は3000人とも報道されている。しかも比較的戦場での経験が豊富で戦闘員として手ごわいというのが、一般的な評価である。もしアサド政権に対してイスラム急進派が勝利を収めれば、チェチェン人は、その余勢を駆って帰国しロシアでの闘争を激化させるだろう。プーチンにしてみれば、この面からも急進派の勝利は阻止したい。 加えてシリアには、ロシアが中東で使用できる唯一の海軍基地タルトゥースがある。アサド政権の崩壊は、その喪失を意味しかねない。このように、モスクワのアサド政権支援には様々な要因が絡み合っている。そしてプーチン大統領のシリアへの介入が意味するのは、ロシアが大国として中東の政治に復帰したという事実である。
■高橋和夫(たかはし かずお) 評論家/国際政治学者/放送大学教授(中東研究、国際政治)。大阪外国語大学ペルシャ語科卒。米コロンビア大学大学院国際関係論修士課程修了。クウェート大学客員研究員などを経て現職。著書に『アラブとイスラエル』(講談社)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会)、『イスラム国の野望』(幻冬舎)など多数