「兄の同居は認められない」警鐘を鳴らした児相のジレンマ 子どもの声をどうすくい上げるのか【大津女児虐待死事件(下)】
検証部会によると、当初は滋賀、京都、大阪の3児相の担当者が集まって、対面で引き継ぎを行う予定だったが、日程の都合が合わず見送られたという。報告書では、この合同引き継ぎの見送りが一因となって「母親が長期不在になる可能性や、薬物使用等、家庭内のリスクと兄の性格、行動傾向など、本児(実愛ちゃん)への安全と安心に対するリスクを読み取ることができなかった」と総括している。 自治体間の引き継ぎや連携の在り方は、これまでも問題になってきた。2018年3月、東京都目黒区に住む船戸結愛ちゃん=当時(5)=が両親による虐待で死亡した事件では、一家が転居前に住んでいた香川県の児相から目黒区の児相に虐待のリスクがきちんと伝わっていなかったことが明らかになった。政府は結愛ちゃんの事件後、自治体間の引き継ぎについて全国ルールを整備し、その中で「緊急性が高い場合には、対面での引き継ぎを原則とする」と明記した。 大津市のケースでは、三つの自治体が関係している上、児相側は当初「虐待事案」ではなく、保護者の経済的な事情などを背景とした「養育困難事案」と認識していた。千件単位の事案を抱える児相の中では、相対的に優先度が低くなるケースだ。そのため、全国ルールに照らしても「3児相合同の対面引き継ぎが必要な緊急性の高いケースだった」と言えるかどうかは微妙だろう。
だが、結果的に、親子間ではなく兄妹間の傷害致死事件になったことを鑑みると、やはり大阪市と京都府の担当者が直接、相まみえる機会をつくるべきだったのではないだろうか。 ▽読み解けなかった兄の内面 検証部会の報告書によると、母親の転居が頻繁だったこともあり、兄は6カ所の児相をたらい回しにされていた。乳児院や児童養護施設、一時的な家庭引き取り、親戚の家や里親家庭…。親の希望や児相の判断によって、生活環境は短期間で何度も変化した。保護者も母親や養父、施設の先生、祖母、里親と移り変わる中で、心を落ち着ける場所はあったのだろうか。高校は中退し、その後に勤め始めた会社も短期間で辞めることになった。 兄を少年院送致とした大津家庭裁判所は、その決定文で次のように指摘している。「少年は幼少期から、しつけの名目で暴力をふるわれてきた経験から、言葉で言っても分からなければ暴力もやむを得ないという価値観を有していた。暴力の危険性に対する認識も乏しいといわざるを得ない」