「兄の同居は認められない」警鐘を鳴らした児相のジレンマ 子どもの声をどうすくい上げるのか【大津女児虐待死事件(下)】
2年前の夏、大津市内に住む小学1年の女児(6)が当時17歳の兄による暴行で死亡した。長らく別々の環境で暮らしてきた異父兄妹は、母親(43)の下で同居を始めたものの、わずか数カ月でネグレクト状態に追い込まれ、孤独とストレスを募らせた。 別の薬物事件で逮捕、起訴された母親は拘置所で記者の面会取材に応じ「全ては私のせいだ」と語った。自らの意思で子どもを引き取りながら、養育を放棄した保護者の責任は重いだろう。だが、6歳児の死という深刻な結果に至るまでに、第三者が手を差し伸べることはできなかったのだろうか。 事件後に滋賀県が公表した「児童虐待事例検証部会」の報告書には、一家と関わりのあった滋賀、京都、大阪、それぞれの児童相談所の動きが記録されている。私たちは報告書の内容を基に、改めて各児相の対応を調べ直すことにした。(共同通信=山本大樹、小林磨由子、吉田有美香) 【大津女児虐待死事件(上)】https://nordot.app/1064356411188084755?c=39546741839462401
【大津女児虐待死事件(中)】https://nordot.app/1064372543443157720?c=39546741839462401 ▽「ごめん」っていう気持ちしかない 女児が死亡してから1年と1カ月がたった2022年9月2日。大津地方裁判所で、麻薬取締法違反などの罪に問われた母親の公判が開かれ、兄が証人として出廷した。 証言台は、傍聴席の視線を遮るようについたてで囲まれていた。だが、すぐ脇の被告人席からはよく見えるのだろう。裁判官に向き合った兄に向けて、被告人席に座る母親は笑みを浮かべ、小さな声で一言、二言つぶやいた。2人が顔を合わせるのは約10カ月ぶりだった。 検察官は、無罪を訴える母親の主張を崩そうとさまざまな質問をぶつけたが、兄は抑揚のない声で「記憶にない」「覚えていない」と繰り返すばかり。「お母さんは唯一の身内だから、話を合わせようとしているんじゃない?」と揺さぶりを掛けられても、「それはないです」とにべもなく突き放した。