日銀総裁記者会見:『時間的余裕はある』との表現を今後は使わない
日本銀行は市場との対話強化よりも政策の自由度確保を選んだか
また、日本銀行は「時間的余裕はある」との表現を使うことで、次の会合などでの追加利上げの有無を事前に市場に織り込ませる、新たな市場との対話の手段として使う狙いもあっただろう。 しかしそれは、政策変更の意図を前倒しで市場に伝えることになることから、日本銀行の政策の自由度を低下させてしまう面がある。そうしたデメリットが、市場との対話を強化できるというメリットを上回ると判断したため、日本銀行は今回、「時間的余裕はある」との表現をやめた可能性も考えられるところだ。実際、内外政治情勢が非常に不透明な中、日本銀行が前倒しで政策意図を市場に伝えることはより難しくなっている。 「時間的余裕はある」との表現をやめたことで、日本銀行は次回12月の会合での追加利上げの可能性があることを市場に伝えた。しかし、情勢が非常に不確実であることから、その可能性が高まっているとは言えない。
衆院選後の国内政治情勢は追加利上げの制約に
衆院選で大敗した与党は、国民民主党の協力を得るために、その経済政策を一部受け入れることを求められる情勢だ。国民民主党は、金融緩和の継続を主張していることから、与党の政策姿勢もその影響を受けるだろう。こうした衆院選後の国内政治情勢を受けて、日本銀行の追加利上げのハードルは一段と上がったと考えるのが自然なのではないか。 こうした点も考慮に入れ、筆者は、来年1月を追加利上げの時期と引き続き考えているが、仮に今年12月に追加利上げが実施される場合には、そのトリガーとなるのは円安進行だろう。ドル円レートが1ドル155円~160円のレンジに入れば、政府は円安が物価に与える悪影響に配慮して、円買いドル売りの為替介入に踏み切ることが予想される。 そしてその際には、手のひらを返すように、政府は円安阻止に向けて日本銀行に政府との協調を求め、追加利上げの実施を後押しする可能性が出てくるのではないか。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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