“論争”は続くが「味の素」が絶好調な理由。2年連続で「平均2.1万円以上の賃上げ」も実現
結局「料理に欠かせないアイテムの一つ」
味の素という調味料は、推進派と反対派で終わりなき論争が交わされることで有名。人気の料理研究家・リュウジ氏が味の素を愛用しており、Xではそのことに対して過激な言葉を投げかけられることもしばしば。しかし、度重なる値上げをしても買い控えが起こっていない味の素の業績を見る限り、料理に欠かせないアイテムの一つとして、多くの人に支持されている様子がわかります。 価格改定効果で好業績を叩き出すのは、デフレを脱しつつある今の日本を象徴する出来事。この好機をいかにして会社の成長に生かすかが、中長期的な成長を左右するポイントとなるでしょう。 その点、味の素は得られた利益を巧みに活用している様子がわかります。稼いだ利益を研究開発とマーケティング、人件費に多く割いているためです。
稼いだ利益を成長への投資や賃金へと還元
2024年3月期は、主に海外向け調味料・食品の単価アップの影響で、277億円の事業利益の押し上げ効果が働きました。一方、マーケティングと研究開発費が120億円増加。そのコストを含む販管費の増加が291億円の下押し要因となっています。主に値上げによって得られた利益を、成長に向けた投資に回しているのです。 味の素は、海外の広告費をブランドへの投資と定めています。 タイで販売する調味料「RosDee」は、シェア80%を占めており、すでに圧倒的な認知を獲得しています。それにも関わらず、2024年3月期は更に1.4%シェアを伸ばしました。70%のシェアを握るブラジルの「Sazon」も1.1%拡大しています。 味の素は巧みなマーケティングによって、すでに圧倒的なシェアを占めるエリアにおいてさえ、単価増と販売数量増の両方を成し遂げているのです。
「成長事業への投資」にも積極的
味の素は現在、ヘルスケア領域の強化を進めています。メディカルフード、再生医療用培地、核酸医薬などです。特に再生医療分野への投資を積極化しています。京都大学iPS細胞研究所と再生医療に必要な培地の共同研究を行っていました。その中で、iPS細胞の増殖や分化に欠かせない「StemFit」の開発に成功しています。 再生医療が本格化すれば、培地も需要が増大する可能性があるのです。味の素は半導体の製造に欠かせない絶縁材を提供していることが知られていますが、医療の分野でも活躍が期待されています。 従業員への還元にも積極的。2024年3月に開催された春季労使交渉において、ベースアップ1万4000円に対して一発満額回答。2年連続で1人当たり6%相当、平均2.1万円以上の賃上げを実現しました。 経団連によると、大企業の2024年春季労使交渉の賃上げ率は5.58%。2023年は3.92%でした。2年連続で6%の賃上げを行った味の素は、大企業の中でも賃上げ率が高い水準を維持しています。 会社の成長や人材への投資を加速している味の素の経営姿勢を見ると、強気の値上げ発言をした社長の真意が見えてきます。 <TEXT/不破聡> 【不破聡】 フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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