「机の上に置いておくと、みんな逃げるね」解剖学者の養老孟司がヤクザを撃退するために使った"アイテム"
■「亡くなったそうですが?」と聞くと、「えっ? 生きてますよ」 【名越】20回以上もお葬式に行かれてたんですね。 【養老】引き取りはそれぐらいありますね。葬式がない場合もありましたよ。献体だから、あらかじめ意思を示すカードを持っていて、「死んだらここへ連絡してくれ」って書いているから、連絡がくるんです。 【名越】それはいろんなことに出くわしますよね。 【養老】一度おかしいことがあってね。仮に「浜田さん」だとすると、浜田さんが亡くなったという連絡が大学に入ったんです。鎌倉の人だった。僕の地元だから土地勘がある。ちょうど浜田さんのご近所の店がまだ営業している時間だったから、浜田さんのことを聞くと、入院先がわかった。 「そのおじいさんなら、鎌倉病院に入院してますよ」 さっそく病院に行って、 「浜田さんという方、亡くなったそうですが?」 と看護師長さんらしき人に聞くと、 「えっ? 生きてますよ」と。 その次に、不意にこう言うんだよ。 「あのおじいさん、またやったな」 その人、死ぬ心配ばかりしているので、消防署へかけたり警察署にかけたりしていて、ついに大学にもかけたというわけなんだけど、そういうのは初めてのケースでしたね。その人、間もなく亡くなったみたいだけど。 ■「遺体の引き取り」は誰がするのか 【名越】他の大学では、引き取りはどなたがするんですか。 【養老】技監でしょうね。要するに当時は人手不足だったんですよ、総定員法というもので人員を厳しく締めつけられていたから。あの頃はまだ大学が国立だったでしょ。だから、その機関で退職者が10人にならないと次の補充ができないわけ。大学や病院で働いている人は、看護師さんとか含めて何千人もいるから。解剖なんかにはなかなかその順番が回ってこないんですよ。だからずっと人の補充ができない。 最終的に、遺体の引き取りを外部の会社に外注するようになったんだけど、それまではとにかく大学の車を技監が運転して僕がついていくという形がずっと続いていた。