企業のSNS、法改正でどう変わる? ステマ規制を受けて企業担当者が押さえておくべきこと
判断の軸は「事業者の表示」と「判別の困難性」
ステマ規制に関して、消費者庁は「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」をWebサイトで公開しています。本記事では、当該運用基準をもとに具体的な事例を交えてご紹介します。 参考:「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の指定及び「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」の公表について | 消費者庁 ステマに該当するかどうかを判断するにあたって「事業者の表示」であるかどうか、「判別の困難性」はどうかの2つの要件で考えるとわかりやすいです。 ■ ステマ要件(1)「事業者の表示」とは まずはステマ規制の要件の1つ目「事業者の表示」について見ていきましょう。 □ (1)事業者が自ら行う表示 【例】 ・事業者が自らのSNSアカウントに、自社の商品について表示(投稿)する場合 ・事業者が自らのWebサイトに、自社の商品に関する内容を表示する場合 事業者が自らのもつ媒体で自社の商品について投稿する場合は、当然ながら事業者の表示となります。 □ (2)事業者が第三者になりすまして行う表示 【例】 ・商品の販売担当者(役員、管理職など)が販売を促進するためや、自社商品の認知度を上げるために商品の画像や文章をSNSに投稿する場合 ・事業者の子会社の従業員が、販売を促進する目的で自社商品の品質や性能の有能さについて投稿する場合 ここで注意しないといけないのは、事業者自身でなくても、事業者の子会社の従業員が行う事業者の商品または役務に関する表示も含まれていることです。また、事業者の取引先(広告会社や制作会社など)の従業員であっても、当該商品の宣伝に関わっている場合は事業者の表示であると判断される可能性があるので注意しましょう。 □ (3)事業者が明示的に依頼・指示をして第三者に表示させた場合 【例】 ・事業者がインフルエンサーに商品の特徴などを伝えたうえで、インフルエンサーがそれに沿った内容をSNSやクチコミサイトに投稿する場合 ・事業者がインフルエンサーに商品を提供し、良い商品である旨を投稿してほしいと依頼し、インフルエンサーがSNSに投稿した場合 インフルエンサーなどの第三者の表示であっても、事業者がその投稿内容の決定に関与した場合は「事業者の表示」となります。ここには、ECサイト出店者が購入者に依頼して行わせる「サクラ」としてのクチコミや、事業者がアフィリエイターに委託して行わせる自社商品に関する表示(いわゆるアフィリエイト広告)も含まれます。 □ (4)事業者が明示的に依頼・指示していない場合であっても、第三者に表示させた場合となるもの 【例】 ・事業者がインフルエンサーなどの第三者に対して、無償で商品提供をした上でSNS投稿を依頼した結果、第三者が事業者の方針に沿った投稿をした場合 ・事業者がインフルエンサーなどの第三者に対して、経済上の利益があると言外から感じさせたり、言動から推認させたりして、第三者がその事業者の商品について投稿を行った場合。 たとえば、事業者が自社の新商品を無償提供したことで、インフルエンサーが事業者の意図をくんで投稿するケースなど当てはまります。事業者がインフルエンサーなどに対して明示的に依頼していない場合、事業者の表示となるかどうかは、以下の実態を踏まえて総合的に判断されます。 【判断のポイント】 ・事業者と第三者のやりとり(メール、書面、口頭でどのようなやりとりがあったか) ・対価の内容や目的(金銭、物品を問わず、なんらかの対価はあったか。提供の理由は何か) ・事業者と第三者の関係性(過去に対価を提供していたか、今後対価を提供する可能性があるか) また、事業者がインフルエンサーに対して今後の取引をほのめかした結果、仕事が欲しいと考えたインフルエンサーが投稿するケースもあります。これはインフルエンサーが自主的に行った表示とは言えず、事業者の表示に該当します。事業者が明示的に依頼していない場合でも、実態を踏まえて総合的に判断されるのです。 □ 「事業者の表示」に当てはまらないケース 事業者が第三者の表示に関与していたとしても、第三者の自主的な意思で投稿したものと認められる場合は、事業者の表示に当てはまりません。 【例】 ・第三者が、自主的な意思に基づきSNSに投稿する場合 ・事業者がインフルエンサーなどの第三者に無償で商品または役務を提供してSNSなどへの投稿を依頼するものの、インフルエンサーなどの第三者が自主的な意思に基づき投稿する場合 ・第三者が、SNS上のキャンペーンや懸賞に応募するために自主的な意思に基づき投稿を行う場合 ・事業者が試供品などの配布を行った結果、受け取った第三者が自主的な意思に基づき投稿を行う場合 事業者の関与の有無に関係なく、投稿者が自らの意思で投稿を行う場合は、事業者の表示に当てはまりません。 ■ ステマ要件(2)「判別の困難性」とは ステマ規制の要件2つ目は、「判別の困難性」です。「判別の困難性」とは、一般消費者から見て事業者の表示であることを判別するのが困難であると認められる場合を指します。一般消費者にとって判別が困難であるかどうかは、表示上の特定の文章、図表、写真などから受ける印象・認識ではなく、表示内容全体から受ける印象・認識が基準となります。投稿全体を見て、第三者による自主的な表示であると一般消費者に誤認されるような表示は判別の困難性が高いとみなされます。 □ (1)一般消費者が事業者の表示であることが不明瞭でわからない(判別の困難性が高い)もの 【例】 ・事業者の表示であることがまったく記載されていない場合 ・アフィリエイト広告において事業者の表示であることを記載していない場合 ・事業者の表示である旨について、部分的な表示しかしていない場合 ・冒頭に「広告」と記載し、文中に「第三者の感想」と記載するなど、事業者の表示である旨がわかりにくい表示である場合 ・動画において、一般消費者が認識できないほど短い時間で、事業者の表示である旨を表示する場合 ・一般消費者が事業者の表示であることを認識しにくい文言・場所・大きさ・色で表示する場合 ・事業者の表示であることを大量のハッシュタグのなかに表示する場合 要するに「事業者の表示」である旨がはっきりとわかるように書いていない場合は、誤認を招く表示として不当表示になります。たとえ投稿のなかに「広告」「#PR」などを記載していたとしても、一般消費者が認識しにくい形で表現されているのであれば、不当表示に該当します。 □ (2)一般消費者が事業者の表示であることが明瞭でわかるもの 【例】 ・「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」といったSNSなどで広く一般に利用されている文言による表示を行う場合 ・「A社から提供を受けて投稿している」などのように文章による表示を行う場合 ・商品・サービスの紹介自体が目的である出版物における表示を行う場合 ・事業者自身のWebサイトやSNSアカウントを通して表示を行う場合 広告である旨が明瞭で、一般消費者から見てわかりやすい表示になっている場合は、告示の規制対象外です。