加部究のフットボール見聞録「この世を去った20世紀最大のヒーロー」
ボールを持てば無敵の天才だった
11月25日に亡くなったマラドーナ。「相手を騙すことも芸のうち」というサッカーの魅力のひとつを表現していたスターだった。(C)Getty Images
アステカ・スタジアムの2階席正面から、望遠レンズ越しにディエゴ・マラドーナを見ていた。1986 年メキシコ・ワールドカップ決勝の舞台となったアステカは、2002年日韓大会で主会場だった横浜とは真逆で、客席に傾斜があり専用なのでピッチが近い。望遠なら十分に被写体を狙えた。 目の前で繰り広げられていたのは、アルゼンチン対イングランド。自陣でボールを受けたマラドーナが、ターンをしてふたりを置き去りにした時点で、なぜかゴールまで行くと直感しシャッターを切らずにドリブルを追った。予感は的中した。マラドーナは、GKのピーター・シルトンをかわし後方からテリー・ブッチャーがタックルに入る寸前にシュート態勢に入る。世紀の瞬間を撮ったと思った。ところがゴールが決まる直前には、予期した観客が総立ちで万歳をしていた。結局捉えたのは前席の客のぼやけた大きな背中だった。 一方その3分前に決まった「
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