貯金尽きそうになり発想転換 「ホルモー」で飛躍 直木賞作家 万城目さん
「鴨川ホルモー」「八月の御所グラウンド」などの小説で知られる直木賞作家の万城目学さんが10日、津市の三重県総合文化センターで講演した。約200人の聴衆を前に、苦境が続く出版業界の現状にふれ、「それでも書き続ける」と、執筆への情熱を語った。
小説はタイトルから決める
「秋の読書推進月間」(10月26日~11月24日)にあわせ、作家や書店が幅広く参加するイベント「BOOK MEETS NEXT 2024」の一環。本の魅力を発信しようと、三重県立図書館や三重県書店商業組合などが今回の講演を主催した。 万城目さんは大阪市出身で2006年に京都が舞台の「鴨川ホルモー」でデビュー。万城目さんの小説は風変わりなタイトルが特徴で、講演では「小説を書くときはタイトルを先に決める」と、こだわりがあることを明かした。 ユーモアを交えたファンタジーでヒット作を連発してきたが、デビューするまでの約10年間は「タイトルも話の内容もすごく真面目、暗い話で、なかなかうまくいかなかった」と振り返った。東京で小説を書いては応募する日々を過ごしたが、うまくいかなかった。 転換点となったのは、貯金が尽きそうになり、それまでの発想を変えたことだったという。「約10年間うまくいかなかったので、微修正ではダメだ。これまでの暗い話を一切やめた」。デビュー作となった「鴨川ホルモー」については、「大学のサークルを舞台とした話にしようとしたが、ありきたりなので、架空の競技『ホルモー』をやるサークルの話にした」と執筆の舞台裏を説明した。
進む読書離れ 「書き続けるしかない」
出版業界の現状についても語った。読書離れが進み、街の書店も減少傾向が続いている。三重県内では約2割の自治体が、書店が地域に一つもない「無書店自治体」となっている。 万城目さんは「業界全員が何とかしたいと思っているが、解決策は分からない」とした上で、「どうすればいいか、はっきりとは分からないが、それでも書き続けるしかない。(自分が)やれることは、全力で次も面白い作品を書くこと」と話した。来年には、伊賀を舞台とした忍者の小説を執筆する予定という。