「ファンを信じる」新型デミオ1.5ディーゼルの戦略 ハイブリッドの牙城に挑む
フロントシートにリソースを集中
次にシートだ。実はシートは真面目に作るととても高い。コストダウンの矛先が向きやすい部品のひとつでもある。デミオではシートバックに座面と同じ高密度のウレタンを使用すると共にひざ裏を中心とした座面の硬さを最適化することでシートの座り心地を改善している。旧型に比べてシートが大きくなっている印象を受けたので開発担当主査に聞いてみたところ、前述のように硬さのチューニングで快適性を向上させただけで、サイズそのものは変えていないということだった。 リアシートは、ホイールベース延伸の恩恵で膝元の余裕がたっぷりあり、さらにつま先がフロントシートの下に入れられるように配慮がなされている。 ただし、頭上の余裕は少ない。Bセグメントの場合、基本的な顧客のニーズが2座であり、元々後席居住性のプライオリティは高くない。デミオのテーマのひとつにデザインの洗練性があり、デザイン上ルーフ後端が下がるスタイルが求められるなら、ニーズの少ない後席居住性は多少の我慢を求めることになる。これが空間重視で背の高い四角い箱で構わなければ後席の居住性はもっと追究することができただろう。同じBセグメントでも、シエンタやキューブはそうやってスペースを稼いでいる。 ただし、デミオはルーフに押された頭上空間対策として、座面のクッション厚を減らしているため、Bセグメントの平均値を下回るようなことにはなっていない。しかしクッション厚を減らした結果、このクラスとしては贅沢な設計をしたフロントシートの掛け心地とは当然隔たりが大きくなる。これについて主査は「リアシートは先代モデルのレベルをキープすることを目標とした」と率直に述べている。 コンセプトとコストの制約があって全てのシートを高級にすることはできない中で、使用頻度の高いフロントシートにリソースを集中投下したことは、八方美人を狙わない見切り千両と言える。さらに車高の低さは運動性にも効いてくるので「スタイリングと品質」「走りと燃費」「ロングレンジドライブ」というデミオの3つのテーマに立ち戻れば当然の帰結だとも言える。後席を重視するならサイズにさらに余裕があるアクセラをどうぞということだ。 こうした慎重なバランス取りによって、新型デミオは「Bセグメントのクラス概念を打ち破る」とマツダが胸を張る通り、運転者がロングドライブで疲れない運転環境を実現した。