「ファンを信じる」新型デミオ1.5ディーゼルの戦略 ハイブリッドの牙城に挑む
「燃費のチャンピオン」目指さない選択
新型デミオに関してマツダが設定したテーマは「スタイリングと品質」「走りと燃費」「ロングレンジドライブ」の3つだ。このテーマをどうやって実体化するかという時に、マツダのアプローチは他社とちょっと違う。一番解りやすい「走りと燃費」について言えば、燃費のチャンピオンを目指していない。 今や世界中のメーカーがしのぎを削る燃費競争で、他社を出し抜いてチャンピオンになろうと思えば、他の性能が犠牲になる。戦いが熾烈過ぎて、何も犠牲にしないではチャンピオンにはなれないのだ。例えばタイヤだ。エコ性能に特化したタイヤを使えば、カタログ燃費を稼ぐことができるが、ウエットグリップには目をつぶらざるを得ない。 そういうタイヤを採用することが何を意味するかは、クルマのなんたるかを知る技術者が解らないはずはない。それでもカタログ数値を叩き出さないと競合車との販売競争に勝てない。おそらく忸怩たる思いで燃費スペシャルタイヤを採用している技術者は多いのではないかと思う。 そしてカタログ燃費に踊らされてクルマを購入した結果、雨の日にスリップを経験するユーザーにとってもそれは決してプラスにはならない。メディアはこういうことをなかなか書かないので、誰も得をしない燃費スペシャルのタイヤはどんどん幅を効かすことになるのだ。この件に関しては、メーカ、ユーザー、メディア全部が共犯関係にあると言える。 誰にでも解るカタログ数値を叩きだすことより、マツダはマツダブランドを愛してくれる顧客に満足してもらうことを選んだ。試乗車はトーヨーのプロクセスを履いていたが、これは燃費スペシャルのタイヤではない。もちろんSKYACTIVの柱のひとつは燃費だから、決して燃費をないがしろにしているわけではない。ただ、ウエットグリップを犠牲にしてまで数値を追求しないというだけのことだ。ファンなら解ってくれるはず。そんな技術者の願いがこもっているのだ。