SIMフリーに消極的だったサムスン電子、なぜ「Galaxy S24」で方針を一転させた?
そもそもなぜ、これまでメーカー各社がSIMフリーモデルの販売に消極的だったのかといえば、携帯電話会社への“忖度”が働いていたためでしょう。 日本では長年、携帯電話会社が携帯電話端末と通信回線とセットで提供し、端末を大幅値引きする代わりにさまざまな“縛り”を設けて回線を長く契約してもらうことで、値引きの原資を回収するという販売手法が主流でした。それだけに、メーカーが日本で販売を伸ばすには、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの携帯3社に対し、いかに自社の端末を多く販売してもらうかが重要だったのです。 そこで、メーカー側も携帯3社の販売に影響を与えないよう、あえてオープン市場に向けたSIMフリーモデルを販売しない、あるいは販売時期を大幅に後ろ倒しするなどの対応を取っていたといえます。ですが、ここ数年のうちに状況が大きく変わっており、そこに大きく影響したのが日本政府、ひいては総務省です。 総務省は長年、携帯3社によるセット販売と端末の大幅値引きが、市場競争を歪める主因になっているとして非常に問題視していました。そこで、通信料金と端末代金の明確な分離が求められた2019年の電気通信法改正や、2023年末のいわゆる「1円スマホ」規制など、携帯3社に向けて非常に厳しいスマートフォンの値引き規制を相次いで実施しています。 そのため、携帯各社はスマートフォンの値引き販売が難しくなり、それに加えて昨今の円安によってスマートフォンの価格が大幅に上昇したことで、端末販売は大きく落ち込んでいる状況にあります。そこでメーカー側も、携帯3社への端末供給だけでは販売を伸ばせないと判断し、今回のサムスン電子のように自社でSIMフリーモデルを積極的に販売する傾向が強まっているのです。 もちろん、オープン市場に向けたSIMフリーモデルの販売拡大が消費者の選択肢を増やすというメリットを生み出していることは確かです。とりわけ、Galaxyシリーズのスマートフォンを長年販売していないソフトバンクのユーザーにとって、オープン市場でGalaxy S24シリーズが販売されることがメリットとなることは確かでしょう。 ただ一方で、SIMフリーモデルは携帯電話会社による値引きが適用されない分、値段が高くなりがちで買いづらいこともまた確か。とりわけ、Galaxy S24シリーズのようなフラッグシップモデルは値段が高く、Samsungオンラインショップでの販売価格を見ると、最も安いスタンダードモデル「Galaxy S24」の256GBモデルでも124,700円、最も高い上位モデル「Galaxy S24 Ultra」の1TBモデルでは233,000円と、決して買いやすいとはいえない値段です。 とはいえ、携帯各社に対するスマートフォンの値引き規制は国策で進められているものだけに、政府の意向が変わらない限り、携帯各社からの端末販売が伸びることはもう期待できません。スマートフォンメーカー側には今後、自らの責任でオープン市場での販売に力を注ぐ“覚悟”が一層求められるでしょうし、消費者の側にも高性能のスマートフォンを買うのにとても高いお金を払う“覚悟”が求められていることは間違いありません。
佐野正弘