【なぜ】「仏師が彫った千年の像とそん色ない」ご神像は“レプリカ” 3Dプリンターで精密再現のワケ
読売テレビ
和歌山県新宮市の熊野速玉大社で「奉納祭」が行われました。納められた「もの」と、そこに詰まった地域の人たちの「思い」とは。 和歌山県新宮市の「熊野速玉大社」。古くから「熊野信仰」の中枢を担ってきた由緒ある神社で、2024年12月、“あるもの”が新たに奉納されました。 千年前に作られたとされる国宝の「熊野速玉大神坐像」。と、言いたいところですが……。 熊野速玉大社・上野顯 宮司 「(ご神像は)複製です。本物とは違うのです」 実はこの神像、最新技術の3Dプリンターで複製された、レプリカなんです。原材料こそ、合成樹脂を使っていますが、専門家が色味を何度も確認し、表情や木目の一つ一つまで、こだわりました。博物館にある本物と比べてみても、一見しただけでは、どちらが本物か、見分けがつかないレベルです。 熊野速玉大社・上野顯 宮司 「仏師が一生懸命彫った“千年のお像”と何らそん色ない」 こちらは、今回とは別の仏像のレプリカですが……。 西村菜花ディレクター 「どれくらい精密かというと、木の朽ちた部分まで再現されています」 最新の技術を使えば、本来は見ることができない内側まで、精巧に再現できるのです。 速玉大社では、これまで国宝である「本物」を和歌山市内の博物館で保管する代わりに、神社に写真を置いていましたが、今回、本物に近いレプリカに変わることで、メリットに期待しています。 熊野速玉大社・上野顯 宮司 「国宝の素晴らしさを、もっと身近に感じていただくという点で、とても有意義な事業だと思います」 和歌山県では10年以上前から3Dプリンターを使った仏像などの複製を積極的に行ってきました。そのワケは…。 和歌山県立博物館・島田和 学芸員 「地域の歴史を物語る大切な仏像が盗まれてしまう」 盗難被害です。 和歌山県内では、寺などに置いている仏像が盗まれる事件が相次ぎ発生。犯人の検挙などで、ここ数年は新たな被害は発生していませんが、過疎化によって寺社仏閣の管理が手薄となっている地域が増え、対策が急がれているのです。 そこで、最新の3D技術を生かして複製を行い、そのプロセスで地域の人にも作業に加わってもらいながら、文化財保護の大切さを知ってほしい。そんな狙いもあるといいます。 製作した高校生 「こうやって形になって残り続けて、後世の子供たちにも語り継がれて、忘れられない存在になってほしいです」 熊野速玉大社・上野顯 宮司 「郷土にはこんな素晴らしいものがあるんだという、意識を広げていくという点では、本当に私は皆さんの協力というものがなければ、今回完成しなかっただろうと思います」 地元の人たちの思いが詰まった神像が、国宝に替わる新しい地域の「宝」として平和と繁栄を見守っていきます。