「金持ちエリート政党」に変貌したアメリカ民主党 トランプ&サンダースが前面に出る絶望的状況
東部エスタブリッシュメント主導の共和党は20世紀初頭に「改革の時代」を率いたセオドア・ルーズベルト大統領の伝統を引き継いでいた。だから大恐慌を受け1930年代に民主党が始めたニューディールの革新的政策にも理解を持っていた(Mary C. Brennan, Turning Right in the Sixties, The University of North Carolina Press, 1995, Chapter One.)。
他方の民主党は農業地帯である南部を大きな基盤とし奴隷制を許容する政党だったが、大恐慌を経て都市部の進歩的な労働者層、知識人、マイノリティ、そして伝統的な地盤である南部の保守層を抱える政党となって、フランクリン・ルーズベルト大統領の下で革新的な政治を推し進めた(ニューディール連合)。 この連合によるリベラル政治の優位は、1970年代まで続く。しかし、ジョン・F・ケネディ、リンドン・ジョンソン両大統領が失策を重ねたベトナム戦争への介入と敗北、戦争財政と福祉拡大が相まって生んだ政府債務、石油危機による物価高騰などが重なり、アメリカ経済は景気停滞とインフレが同時に襲うスタグフレーションでにっちもさっちもいかなくなる。
ベトナムからの撤退に悪戦苦闘した共和党リチャード・ニクソンには最後のニューディール政治家の一面もあり、物価賃金統制や飢餓対策など「大きな政府」による対策を打つが、スキャンダルにまみれて失脚。 その共和党側では1950年代からニューディールに親和的な東部エスタブリッシュメントに対抗する動きが起きていた。民間活力を重んじ「小さな政府」を主張する一方で伝統的価値観の復活や強い反共産主義に力点を置く「フュージョニズム(融合主義)」の保守主義勢力が、着々と党内で地歩を固めていたのだ。
1980年大統領選におけるロナルド・レーガンの当選は、30年の準備期間を経て達成された保守勢力の勝利であり、「ニューディール連合」の崩壊といわれた。経済政策的には「小さな政府」と規制緩和のネオリベラリズムの時代に入ったというのが、一般的理解である。 ■民主党のネオリベラル化 ただ、実際の歴史はそれほど図式的な転換が起きたわけではない。ニューディール的な政策を打ちながら挫折していった共和党ニクソンの後、短期間の共和党フォード時代を経て大統領となった民主党ジミー・カーターは、どん詰まりの経済を打破するために次々と規制緩和策を打ち出し、ネオリベラリズムの時代のさきがけとなった。政治に強い宗教色を持ち込んだり、外交に人権を持ち込んだりもし、保守政治への転換はカーター時代に始まる。