こじはる、自社の株式を17億円で売却。専門家も「ビジネスシナジーが高い」と称賛するM&Aの手腕とは
「こじはる」の愛称で知られる元AKB48の小嶋陽菜が、代表を務めるheart relation(東京、代表取締役CCO 小嶋陽菜)の株式を、東証グロース市場上場のアパレルEC企業yutori(東京、片石貴展社長)へ株式51%を売却し、同社の傘下に入ることがわかった。 heart relationは2020年創業、小嶋氏がプロデュースするアパレルブランド「Her lip to」等の運営会社だ。従業員数は130名、直近の業績は2024年12月期6月度までの売上高実績は前年同期比約127%で伸張。2023年12月期の売上高は約30億円となっている。 一方のyutoriは2018年創業、複数のアパレルブランドを運営し、2020年にZOZOグループの傘下に入り、2023年には東証グロース市場に上場。2024年3月期の売上高は43億2,000万円だ。 yutoriによる株式取得価額は16億8,300万円。株式売却前の小嶋氏の株式持株比率は79.50%だという。 小嶋氏は「ブランドを愛してくれるお客さまにこれからも期待し続けてもらうためにも、今の仲間たちとこの先も長く続けていくためにも、同じ目線で責任を背負って戦えるyutori社とパートナーシップをこのタイミングで組むことがベストだと考えました」とメッセージを寄せている。 ブランドスタートから7年目、会社設立5年目となるこのタイミングでの株式売却となり、SNS上では利益確定を賞賛する声があがっているが、小嶋氏はじめ株を売却した株主は、いったいいくらの利益を得たのだろうか。また株式を売却し、傘下に入ると経営等の実権はどうなるのだろうか。岩永 悠税理士に聞いた。 ●株式売却の利益は約13億円と推測 ーー株式取得先は個人株主9名とのことですが、小嶋氏を含む個人株主はどれだけの利益を得たと推定されるでしょうか(株式取得費は資本金の1億100万円と仮定)。 「通常資本金が大きい場合は均等出資でない可能性が高いのですが、簡便的に均等出資で資本金1億100万円という前提で計算します。 譲渡価額16億8,300万円から資本金1億100万円×51%=5,151万円の取得原価を控除したのちに、20.315%(譲渡所得税15.315%及び住民税5%)の課税となります。よって小嶋氏を含む個人株主の手取り総額は下記のようになります。 <手取り額計算式> 16億8,300万円-(16億8,300万円-5,151万円)✕20.315%=13億5,156万2,900円(100円未満切り捨て)」 ●持ち株比率が50%超で、企業の決定において強い影響力を持つことに ーー今回、yutoriは議決権比率51%以上を保有しましたが、経営等ではどのような影響があるのでしょうか。 「会計上では、親会社が議決権の50%以上を保有している会社は子会社となります。よって、heart relation社はyutori社の子会社となります。 持ち株比率が50%超の場合は、株主は企業の決定において強い影響力を持つようになります。具体的には、株主総会での『普通決議』を単独で通すことが可能です。これは、自身が提案した方針や意思決定を、反対意見によって阻止されることなく進められることを意味します。 普通決議とは、役員の選任や報酬、配当の決定、事業計画の承認など、企業の日常的な運営に関わる重要な決定のことを指します。さらに、選任権があるということは解任権もあります。50%超の持株比率を持つことで、経営者は自身の意志を企業の経営に反映しやすくなるのです」 ●今後のビジネス加速につながる、ビジネスシナジーが高いM&A ーー小嶋氏は「(M&Aは)会社の立ち上げ当初から考えていた選択肢」としながら「やり切った時のゴールというイメージで、今すぐにとは考えていなかった」といいます。さらに「私らしく、長く、走り続けるためには自分の持っている責任を誰かと一緒に背負って新たにチャレンジしていくのがベストだと考えた」と、今回の子会社化について語っています。 小嶋氏の会社がyutoriのグループに入ることで、小嶋氏やheart relationにとってはどのようなメリットがあるのでしょうか? 「最近の起業家の多くは、創業当初から将来的なM&Aを見据えて活動している方も多くいらっしゃいます。思惑としては、株式の一部の譲渡といった部分的なM&Aや、資本提携を行うことで創業利益を得る一方で、自社のスケールや永続性をいちばんに考えることができるパートナーと手を組むことで、更なる発展を見据えているからです。 買い手と売り手の双方がビジネスシナジーを狙うための、更なる市場獲得のためのM&Aや資本提携といえるでしょう。事業承継型M&Aや救済型M&Aとは異なり、ビジネス色が強く、中小企業が大企業や上場企業と組むことにより、組織力(信用力・資金力・営業力などさまざま)を手に入れ、ビジネスを加速させる方法ですね。 まさしくアフリカのことわざである「早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け」の実践例だと考えています。 今回のケースは、買収価額から考えても、ビジネスシナジーを高く評価しての買収だと思います。yutori社は上場企業なので、当該買収は投資家対応策としてもかなりの効果を発揮しています。 8月5日の買収発表時の株価は1株1,159円でしたが、9月9日時点の株価は1株2,441円と約1か月で約2倍に上昇しています。発信力もあり経営者としても辣腕な小嶋氏とタッグを組むことを、まずは市場が評価したということになります。 残念ながら、日本経済は人口減に伴いシュリンクしていく可能性が高いです。世界で戦う力を得るためにも、今回のような上場企業と新興企業が手を組みマーケットを席巻していくことは、日本経済にとっても良いことだと私は思います。ビジネスシナジーが高いM&Aを中心とした提携話は、積極的に進めるべきだと考えます」 【取材協力税理士】 岩永 悠(いわながゆう)税理士 アイユーコンサルティンググループ代表/税理士法人アイユーコンサルティング代表社員。 西南学院大学卒業。京都大学経営管理大学院 上級経営会計専門家(EMBA)プログラム修了。2007年中堅の税理士法人に入所。26歳で税理士登録後、国内大手税理士法人に入所し福岡事務所設立に参画。13年独立開業、15年法人化。「日本のミライに豊かさを」をビジョンに掲げ、税理士法人を母体に全国11拠点・総勢150名体制でグループを運営している。24年1月には事業承継専門部隊「承継アドバイザリー部」を設立。主な著書「事業承継を乗り切るための組織再編・ホールディングス活用術」(23年改訂版発刊)。 ・事務所名 : アイユーコンサルティンググループ 税理士法人アイユーコンサルティング ・グループサイト:https://bs.taxlawyer328.jp/ ・採用サイト:https://iu-recruit.taxlawyer328.jp/
弁護士ドットコムニュース編集部