全日本体操V7を達成した内村の危機察知力
体操の全日本個人総合選手権で、内村航平(コナミ)が決勝でただ1人の90点台となる90・300点をマークし、予選と決勝の2日間合計181・200点で優勝。前人未踏の7連覇を達成した。7度という優勝回数は竹本正男、小野喬と並ぶ最多タイだ。大会直前の7日に負傷した左僧帽筋(首から肩、背中にかけての表層の筋肉)の痛みをこらえながら、2位の野々村笙吾(順大3年)、3位の加藤凌平(同)を抑えての優勝。ケガを抱えながらも伸び盛りの若手に影をも踏ませず、連覇し続けられるのはなぜか。 「痛みがある中で、これほどまで自分の演技ができた。次につながる全日本選手権だった。ただ、苦しかったけど、抑えるポイントは抑えていたし、自分ではできると思っていた」。貫禄を漂わせる言葉の通り、ミスがあったのは予選と決勝を通じた12回の演技で、決勝の跳馬だけ。予選を翌日に控えた8日の会見では、「僧帽筋を痛めた瞬間は、こんなに痛めたのは初めてだったので、正直言うとこれは本当にヤバいかもしれないと思った」と話しており、スタッフ陣にも緊張感が走ったという。けれども、窮地に陥ってからの立て直しが驚異的だった。 もともと内村には人並み外れた危機察知能力がある。体中の筋肉に精密なセンサーを装着しているかのように筋肉の状態を把握し、疲労や異変を感じた場合は、演技中に技の構成を変えてでも危機回避をする。それがミスの少ない演技という結果につながっている。今回のケースでは、内村特有の精緻な筋肉センサーに加え、新たな能力も明らかになった。治癒力だ。僧帽筋を痛めた日にはトレーナーと話し合いながら多めのマッサージを施し、翌日には大幅に回復。「なんとか我慢してできるかなという程度になった」(内村)というのだ。さすがに試合では、予選も決勝も痛み止めを2錠ずつ服用しなければならなかったというが、内容としては危なげない状態でタイトルを守ることに成功した。 内村を長年指導してきた森泉貴博コーチが言う。「航平はケガをしても普通の選手と比べて半分かそれ以下の時間で治してしまう。医学的なことは何も分かっていないが、いつもそうなんです」。食べ物の好き嫌いが多いことで知られる内村だけに、ある意味、神秘的とも言える能力だ。