「夜行新幹線」は実現できるか? 高速バスとの競合、貨物新幹線との連携! 可能性と課題を考える
夜行列車再興の経済的可能性
夜行列車は、かつて多くの人に利用されていた移動手段だ。寝台車を使った快適な移動や、昼間の時間を有効に使える利点があるものの、新幹線や高速バス、格安航空の普及でその存在感が薄れてきた。 【画像】どの部屋にするか迷う! これが「サンライズの車内」です!画像を見る(計12枚) 本連載「夜行列車現実論」では、感傷やノスタルジーを排して、経済的な合理性や社会的課題をもとに夜行列車の可能性を考える。収益性や効率化を復活のカギとして探り、未来のモビリティの選択肢として夜行列車がどう再び輝けるかを考えていく。 ※ ※ ※ かつて、在来線の夜行列車は非常に人気があった。代表的なものには、東京と西鹿児島を結ぶ寝台特急「富士」や「はやぶさ」があり、これらはそれぞれ日豊本線と鹿児島本線を経由していた。 富士は全走行距離が1574.2kmで、1日かけて走り続けるダイヤだった。東海道・山陽新幹線が全通しても、夜に寝たままで乗り換えなしに目的地に直通できる寝台列車は独特の支持を受けていた。 1988(昭和63)年に青函トンネルが開通した後は、北海道への寝台列車も登場し、 ・北斗星 ・トワイライトエクスプレス ・カシオペア などの高級寝台列車が人気を集めていた。しかし、 ・夜行高速バス網の拡充 ・格安航空の登場 ・寝台客車の老朽化 により、ブルートレインなどの客車型寝台列車は衰退していった。現在では、出雲や瀬戸のように、サンライズ寝台列車が需要の高い区間で運行されているだけだ。サンライズは、人気が高く、チケットを手配するのが難しい車両となっている。 こうした状況やインバウンド需要による出張費の高騰を考えると、夜行列車での移動には今も意味があるのではないかと思う。特に、 「夜行新幹線」 を導入できないのかと、筆者(北條慶太、交通経済ライター)は常に考えている。ここでは、そんな夜行新幹線について再考してみたい。
夜行移動で時間効率化
夜行高速バスは、平成時代以降、運賃が安いことから人気を集め、各地で成功を収めた。しかし、ビジネスパーソンにとっては、移動時間を睡眠に充てることで効率的に活動できる点が大きな魅力だ。筆者の周りでも、このメリットを実感している人が多い。また、ドリームスリーパーのような全個室型や、鉄道のグリーン車のようなプレミアムシートは予約が取りづらいため、お金を払ってでも夜間に移動し、 「生活の時間効率」 を上げたいと考える人々も少なくない。夜行移動の選択肢を増やし、低価格から高級路線まで鉄道やバスなどで提供することは意味があると考える。 次に、経済的な効率と収益性を見てみよう。たとえば、東京~博多間の移動に関して、西鉄の夜行高速バス「はかた号」のプレミアムシートは、ウェブ予約やオンライン決済、コンビニ発券でダイナミックプライシングが適用され、1万8000円から2万5000円の価格帯で提供されている(ビジネスシートは9000円から2万円)。窓口発券では、プレミアムシートが2万5000円、ビジネスシートは2万円だ。往復の場合、最安3万6000円から最大5万円となる。 一方、東京から博多までのぞみの普通指定席を利用すると、5時間弱で2万3810円、往復なら4万7620円だ。はかた号のプレミアムシートより若干安い価格だが、 「ビジネスホテルの宿泊費」(博多地区でも1泊1万2000円から1万6000円) が高騰していることを考えると、5万円から5万5000円程度であれば、夜行新幹線も十分に競争力を持つ選択肢となるだろう。特に、はかた号のように ・15時間弱の移動時間 ・身体的な疲労 を考慮すると、夜行新幹線の選択肢は十分に検討に値する。ただし、夜行専用の新幹線車両を整備するにはコストがかかるため、2列ひとり席や、3列をS-Work対応のように2分割する形の効率的な座席配置が望ましい。また、グリーン席は夜行時のみ2列ひとり席として運用する方法が考えられる。