震災からの復興を目指す 石川県・独立野球リーグのトレーニング事情
そのグラウンド確保も大変だ。地域密着を掲げる独立リーグにとって、地元の各野球団体との関係構築はマスト事項である。また、フランチャイズ県内から広く支援を得るため、フランチャイズエリア各市町村で試合を開催することが多い。ただし練習場所はある程度固定できたほうがいいに決まっている。日常使用できる練習グランドを確保した上で、さまざまな町で試合を行なうというバランスに各球団は気を遣っている。 ミリオンスターズの場合、ここ近年は金沢市民野球場を実質的な「ホームグラウンド」とし、公式戦の多くをここで実施し、練習は金沢市内の野球グラウンドを借りて行なっている。そして、小松市をはじめとする各都市でも公式戦を開催するという流れになっているが、今シーズンは震災のためこれまで毎年のように試合を開催していた能登地域の七尾市や珠洲市での試合開催はできず、ナイター照明を更新のため使用できない末広野球場(弁慶スタジアム)での開催は1試合となり、金沢市民球場に試合開催が集中することになってしまった。この状況は選手にとっては、移動などの負担が少ない状況となり、好ましいと言えるのだが、県全体を対象とした地域密着を掲げる球団としては、痛し痒しというところだろう。 その上、「ホームグラウンド」と言っても、NPB球団のように球場を半ば独占的に使用するというわけにはいかない。他のアマチュア団体と同じく時間単位で球場を借りているに過ぎない。試合や練習が終わった後はきれいに掃除をし、「原状復帰」して去らねばならない。1人何役もこなす少数の職員と選手、コーチからなる「球団」にあって、使用したベンチやロッカールームを片付けるのは選手の仕事だ。 練習の際も同様で、無論のこと専任のバッティングピッチャーなどいない。コーチや監督がこれを務めることが多いのだが、真夏の炎天下でのデーゲームも多い独立リーグでは、指導者も体力勝負だ。取材した試合では、試合前練習で富山サンダーバーズの監督自ら外野にノックを打ち、選手からの返球もバットをグラブに持ち替えて受けていた。 そんな環境だが今年、阪神タイガースから出向という形でミリオンスターズの監督に就任した岡崎太一監督は、独立リーグの練習環境についてこう話してくれた。 「石川に来る時点で、練習環境についてはある程度覚悟していました。僕は社会人野球からプロに行ったんですが、こちらに来て『ともに本当に恵まれた環境でさせていただいたな』とあらためて感じました。独立リーグはグラウンドの確保から始まって、他の団体との兼ね合いで1日中使うこともできませんし。でも、その中でやっていくことも大事ですから。ここでは日々のトレーニングも各自別々にやっているので、我々の目の行き届かないところもあるんですが、(選手たちは)若いんだから、自分で試行錯誤しながら自分の限界値までやってみることも必要かと思うんですよ。追い込まないと限界がわからないところもあると思うんで」 NPBへの重い扉をこじ開けるため、また復興に向けて能登を勇気づけるため、石川ミリオンスターズの選手たちは今日もアスリートとしての高みを目指している。
取材・文・写真/阿佐智