「奨学金」を返還してくれる企業が増えていると聞きました。収入が少なく返還が「不安」なので、この制度について詳しく知りたいです。
社員が学生時代に借りた奨学金の返還を、勤務先の企業が人材確保の一環として、一部または全額返還支援する制度の導入が全国の企業に広がっています。企業と社員の双方にとって、どのようなメリットがあるのか、解説します。 ▼「大学無償化制度」の対象者とは? 年収要件や注意点を解説
企業等の奨学金返還支援(代理返還)制度とは
日本学生支援機構(JASSO)の貸与奨学金(第一種奨学金・第二種奨学金)を受けていた社員に対し、企業が返還残額の一部または全額をJASSOへ直接送金する制度です。 この制度以前にも奨学金の返還支援金を社員に給付する企業は以前からありますが、給与などに上乗せする方法がほとんどでした。この方法では、通常の給与と支援金の区別がつかず、支援金に所得税や社会保険料がかかりました。 JASSOの代理返還制度では、企業が直接、JASSOに返還額を送金できるようになったため、社員の給与と区分できるようになり、所得税や社会保険料がかからないケースが増えました。この結果、令和6年6月末時点で、全国で2151社が奨学金返還支援(代理返還)制度を利用しています。
企業等の奨学金返還支援(代理返還)制度のメリット
この制度は社員と企業の双方にとってメリットが大きいです。まず、社員にとっては奨学金返還の負担が減り、将来の生活設計が立てやすくなります。 労働者福祉中央協議会が2022年に実施した調査(対象45歳までの奨学金利用者)によると、奨学金の返還が生活設計に影響しているかどうかについて<影響している>の比率でみると、「結婚」は37.5%、「出産」は31.1%、「子育て」が31.8%などとなっています。 奨学金返還に伴う従業員の経済的・心理的負担を軽減することで、安心して働ける環境をアピールできます。 また、企業が直接機構に送金することで、通常の給与と返還額が区分され、支援を受けた額の所得税が非課税となり得ます。さらに、支援を受けた額は原則として標準報酬月額の算定の基となる報酬に含めませんので社会保険料が増えることもありません。 一方、企業にとっても、支援金は学資に充てる費用となるため、損金算入ができ法人税の軽減になります。また、「賃上げ促進税制」の対象となる給与等の支給額にも該当することから、一定の要件を満たす場合には、法人税の税額控除の適用を受けることができます。 希望する企業は、JASSOの公式ウェブサイトに企業等情報および支援要件等を掲載することが可能なので、就職活動中の学生へのアピールができます。人手不足が課題となっている企業にとっては、他社と差別化でき、かつ、大きな宣伝効果が期待できます。 また、社員の経済的負担を軽減し、若手社員の早期退職を防ぐことも期待できます。離職率低減の効果により、新規採用と社員研修にかかるコストも削減できます。