居敷当てが摩耗した一枚を眺める姿は、文机の前で執筆するお父様を思い出されているかのよう。

いっぽう、ジャワ更紗かインド更紗か、いずれにしても東南アジア系の模様が描かれた綿の服地をカバちゃんが帯の幅に折り畳み、 「これを付け帯にしたらすごく使いやすいと思います。ステキステキ！」 おおいに乗り気のご様子。正直、私はどちらもさほど期待していなかった。本筋の用途と離れたものに仕立てたところで、趣味に走りすぎた羽織や帯になってしまわないだろうか。 期待しないまま数週間後。出来上がった帯と羽織を見て仰天した。 「あら、悪くないわね！」 カバちゃんのお見立てとイッシーの見事な着つけのおかげもあるけれど、洋服の生地がこんなお洒落な付け帯になって蘇るとは思いもよらなかった。これなら締めるのは簡単だし、地味なきものがグッと引き立つ。夏のムームーなんぞにしなくてよかった。こちらのほうが用途はだんぜん広いぞ。

アルバムに収められたワンショット。嬉しそうなお父様と少し緊張気味の阿川さんの様子がなんとも微笑ましく感じられます。

いっぽう父のきものでリメイクした羽織も、単衣のおかげで軽くてなかなか粋である。これなら気楽に羽織って出かけられそうだ。 とはいえ、やはり父のきものだったと思うとつい、身構える。この羽織を着るたびに、父の声が背中から背後霊のごとく聞こえてきそうで緊張する。

“プチ・リメイク”のススメ

きりりとハンサムな銀通しの御召しに“プチ・リメイク”した付け帯を合わせて。

大切な方から譲られたきものを自分らしく着こなしたい……と思いながらも、きものリメイクは時間も費用も要するためハードルが高いと感じている方が多いようです。実は、阿川さんもその一人でした。 「染め替えたり手を加えすぎることなく、手軽にできることはないかしら？」と願う阿川さん。そこで開かずの茶箱から取り出したのは、お父様の消炭色の羽織でした。「直さずとも、このまま着られるんじゃないかしら？」と袖を通す阿川さんに、カリスマ着付師イッシーこと石山美津江さんが、すかさず「男物と女物では仕立てが異なります」と進言。 抜き衣紋に沿うように衿肩あきを調整し、身八つ口を開き、着丈や羽織紐を通すチの位置も阿川さん仕様に“プチ・リメイク”。クールに演出するジャケット感覚の一枚がワードローブに加わりました。