もはや為替だけで株価は語れない? 注目すべき指標「実質輸出」とは?
日経平均株価が年初来高値付近で推移しています。2015年央に付けた高値更新が視野に入るなど、株価はジリジリと水準を切り上げています。一方、USD/JPYは112円近傍での推移が続いています。これは年初に比べて円高で、2015年央に付けた125円をはるかに下回る水準です。 依然として日々の値動きベースでは円安・株高となることが多いものの、やや長い目でみると、この2年程度は円高・株高が同時進行する形となっており、為替と株価の関係に変化が生じています。これまで円安が企業業績の拡大に寄与することで、株価が上昇するという説明が多くなされてきましたが、少なくとも現状は「円安だから株高」という因果関係が成立していません。為替だけで株価が説明できる局面ではなくなった可能性があります。
「円安=株高」にならない背景ある「実質輸出」の動きとは?
この乖離について筆者は、円高にもかかわらず実質輸出が伸びていることが背景にあると考えています。実質輸出とは、為替や物価変動の影響を除去した尺度で、輸出を付加価値ベースで捉えたものです。その実質輸出は2015年をピークに円安が一服する下でも、グローバル経済の回復を受けて、2016年以降は顕著に持ち直しています。目下の実質輸出は既往ピークである2008年1-3月期の水準をわずか3%程度下回るに過ぎず、過去最高の更新が目前に迫っています。
2000年代後半の経験に反して円高でも輸出が打撃を被らず、企業業績が拡大基調にあることが株式市場で評価され始めた可能性があるでしょう。輸出企業は、円高で競争力が削がれてしまう製品の海外現地生産比率を高めた一方、円高でも競争力を維持できる製品の生産は国内に残しています。こうした企業の戦略が奏功している可能性が指摘できます。このように為替と輸出の関係に変化が生じたことが、為替と株価の乖離の一部を説明しているように思えます。
なお、筆者はこうした輸出の力強さに加えて、国内経済の順調な回復を評価して日経平均株価の見通しを1万9000円から2万1500円に引き上げました。円安という追い風が吹かなくとも、国内外のマクロ経済が回復する下、日本企業の業績拡大と株価上昇が期待されます。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。